『選んだ孤独はよい孤独』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『選んだ孤独はよい孤独』(山内マリコ), 作家別(や行), 山内マリコ, 書評(あ行)
『選んだ孤独はよい孤独』山内 マリコ 河出書房新社 2018年5月30日初版
地元から出ないアラサー、女子が怖い高校生、仕事が出来ないあの先輩・・・・・・・誰もが逃れられない「生きづらさ」に寄り添う、人生の切なさとおかしみと共感に満ちた19編。情けなくも愛すべき男たちの「孤独」でつながる物語。「女のリアル」の最高の描き手・山内マリコが「男のリアル」をすくいあげた新たなる傑作! (「BOOK」 データベースより)
若い女性作家だからといって侮ってはなりません。ここには世の男性たちの、できれば 「表沙汰にはしたくない」、切なくも情けない 「諸事情」 についてが綴られています。他人事なら笑えるものの、 おそらくは多くの男性が身につまされる、そんな話が羅列してあります。
その指摘があまりにシャープで、笑うより他なすすべがありません。
微笑みながらジャブを打たれ、
気づけばノックアウトに持ち込まれる、
そういう作品集です。- 武田砂鉄(ライター) とは、けだし至言であります。
※ 選んだ孤独はよい孤独 - の 「よい孤独」 とは。
これはフランスの言い習わしで、人々から見捨てられていると感じることと、世評を気にせず自己のうちに深く沈潜することとは異なるということ。ロンリネス(ひとりぼっちの寂しさ)とソリチュード(孤独)とはまったく別のものであるということ。
よい孤独とは、たとえば、町なかで人々と一緒に暮らしながら、ひっそりとした一人の時間を大事にする生き方 - といったようなことを意味します。「生きづらさ」 に悩み、「ひとりぼっちの寂しさ」 に苛まれ、どうしようもなく佇んでいるあなた。あなたにこそ読んでほしいと思う一冊です。
これを読み、今の孤独におもねることなく、別の、よりよい孤独とめぐり会わんことを切に祈っています。孤独である(あろうとする) ことは、決して不幸ということではないのですから。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆山内 マリコ
1980年富山県富山市生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。
作品 「アズミ・ハルコは行方不明」「ここは退屈迎えに来て」「さみしくなったら名前を呼んで」「かわいい結婚」「パリ行ったことないの」など
関連記事
-
『兄の終い』(村井理子)_書評という名の読書感想文
『兄の終い』村井 理子 CCCメディアハウス 2020年6月11日初版第5刷 最近読
-
『噂の女』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『噂の女』奥田 英朗 新潮文庫 2015年6月1日発行 糸井美幸は、噂の女 - 彼女は手練手
-
『ifの悲劇』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文
『ifの悲劇』浦賀 和宏 角川文庫 2017年4月25日初版 小説家の加納は、愛する妹の自殺に疑惑
-
『美しい距離』(山崎ナオコーラ)_この作品に心の芥川賞を(豊崎由美)
『美しい距離』山崎 ナオコーラ 文春文庫 2020年1月10日第1刷 第155回芥川
-
『影裏』(沼田真佑)_書評という名の読書感想文
『影裏』沼田 真佑 文藝春秋 2017年7月30日第一刷 北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の
-
『魚神(いおがみ)』(千早茜)_書評という名の読書感想文
『魚神(いおがみ)』千早 茜 集英社文庫 2012年1月25日第一刷 かつて一大遊郭が栄えた、
-
『恋愛中毒』(山本文緒)_書評という名の読書感想文
『恋愛中毒』山本 文緒 角川文庫 2022年5月15日52版発行 恋愛感情の極限を
-
『悪と仮面のルール』(中村文則)_書評という名の読書感想文
『悪と仮面のルール』中村 文則 講談社文庫 2013年10月16日第一刷 父から「悪の欠片」と
-
『青い壺』(有吉佐和子)_書評という名の読書感想文
『青い壺』有吉 佐和子 文春文庫 2023年10月20日 第19刷 (新装版第1刷 2011年7月
-
『テティスの逆鱗』(唯川恵)_書評という名の読書感想文
『テティスの逆鱗』唯川 恵 文春文庫 2014年2月10日第一刷 女優・西嶋條子の "売り" は