『蜃気楼の犬』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

『蜃気楼の犬』呉 勝浩 講談社文庫 2018年5月15日第一刷


蜃気楼の犬 (講談社文庫)

県警本部捜査一課の番場は、二回りも年の離れた妻コヨリを愛し、日々捜査を続けるベテラン刑事。周囲の人間は賞賛と揶揄を込めて彼のことを呼ぶ - 現場の番場。ルーキー刑事の船越とともに難事件に取り組む中で、番場は自らの「正義」を失っていく。江戸川乱歩賞作家が描く、新世代の警察小説。(講談社文庫)

若い女性のバラバラ死体。
不自然に思える、高所からの飛び降り。
駅の連絡橋の階段からの転落死。
幼稚園で起きた痴情絡みの刺殺事件。

そして、最後にあるのが表題作 「蜃気楼の犬」。これは圧巻である。特に私は、若手の女性捜査員・前山藍に “恋” をした。

「くだらない事件でしたね」
荻野の処置を所轄に任せ阿多留署に戻る道すがら、たった二日で事件を解決に導いた前山はそう吐き捨てた。
「たいていの事件はそんなもんだ」「まったくです」
前山は優秀な刑事になるだろう。それもかなり早いスピードで。(第四話「かくれんぼ」より)

このあと番場は、彼女にこんなことを問い質す。お前が園児に話を聞いて回った時、リサとかくれんぼをしていた子供はいたのか - と。

「いえ・・・・・・・。彼女は入園したてで、あまり友達がいなかったみたいです。ただ、子供たちは混乱していましたから、正確な記憶を期待するのは難しいと思います」
それが何か? と言いだけな顔に、もう一つだけ加える。

くだらない人間を、あまり侮らないほうがいい
見返してくる視線に、従順さは欠片もない。向こうっ気の強さも船越以上だ。
「覚えておきます」 説教などいらないという足取りで、小さな背中は遠ざかっていった。(P199)

この一連のやり取りが小気味いい。互いが互いを信頼し、しかし安易にそれを口にはしない、刑事としての自恃に充ちている。その潔さが気持ちいい。

前山藍がいっとう真価を示すのは、「蜃気楼の犬」でのことだ。迷走する捜査会議にあって、彼女は (数多いるベテラン刑事を出し抜いて) 予想だにしない「自論」を投げかける。

もしも間違いだったとしたらただでは済まされない、喫緊の状況下で放たれた彼女の推論は、会議の空気を一変し、居並ぶ幹部の口をも封じ込め、その場で即座に今後の捜査にかかる基本方針となり、そののち、すべからくそれが「正論」だったとわかる時がやって来る。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


蜃気楼の犬 (講談社文庫)

◆呉 勝浩
1981年青森県生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「ロスト」「道徳の時間」「白い衝動」「ライオン・ブルー」など

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