『小説 学を喰らう虫』(北村守)_最近話題の一冊NO.2

『小説 学を喰らう虫』北村 守 現代書林 2019年11月20日初版

小説 学を喰らう虫

小説 学を喰らう虫 マンモス学校法人に棲みついた暴君の大罪

昨年、アメフトの悪質タックル事件に端を発したマンモス大学をめぐる騒動の中で、学長ではなく、すべての権限の中心に位置し、しかもメディアに一切登場しない理事長という存在を知り、その異様さに驚いた方も多いのではないでしょうか。本書は、そうした巨大学校法人の理事長にフォーカスしたリアルな小説です。なぜなら、この物語はある学校法人で実際に起きた不祥事をもとに描いたものだからです。

舞台は、今から10年ほど前の大阪。
3大学、1高校、1中学を擁し、生徒総数2万1000人を抱える関西屈指のマンモス学校法人の理事長に、ある男が就任したところから物語は始まります。その男は、消費癖の直らない前理事長に代わり、運営の安定と発展を期待されて就任しましたが、その本性は、実はとんでもないワルでした。
談合屋の元締めだったこの男は、理事長の権限を盾に、膨大な工事を発注して巨額の見返りを受け、学校を貪り尽くすようになったのです。しかし、あまりの露骨さに、数人の理事がその悪行に気づき、ひそかに調査を始めます。そして、その実態を知るに至り、理事長追放に向けて、ついに行動を起こします。(以下略/2019.11.23 現代書林 坂本桂一)

目次
第一章 背徳の椅子
第二章 背任容疑
第三章 ワルの本性
第四章 理事長解任動議

水の都・大阪を象徴する淀川の堤防沿いに本拠地を置く、学校法人大昭学園は、淀川工業大学、寝屋川大学、東広島大学と、それに大昭学園高校、中学の3大学、1高校、1中学を擁し、学生総数2万1000人余りが学ぶ関西でも五指に入るマンモス学校法人で、予算規模は入学金と授業料、それに文科省からの私学助成金を含め、年間約600億円にも上ります。

そもそも坂口政雄は、学校教育とはおよそ縁のない人物でした。もともとは現場で叩き上げてのし上がってきた人間で、出身母体の大電工では副社長まで昇り詰め、社長争いで敗れた結果、大電工が出資して設立した子会社のトップスに追われて今に至ります。

とはいえトップスでは社長として君臨してきた坂口は “背もたれの高い椅子” に座ったことがないわけではありません。但し、一民間企業のそれと、年間予算600億円の公益法人のそれとはおよそ “座り心地” が違います。端から “格” が違うのでした。

業界では名の知れた “やり手” の談合屋だった坂口の暴走は、理事長就任後、早々に手のつけられないものになっていきます。大規模な学舎棟の改築と設備の更新、補修に次ぐ補修、経営危機に苦しむ関連校への、採算を度外視した巨額の貸し付け・・・・・・・等々。

学園運営にとって最高決議機関であるはずの理事会をあっさりすっ飛ばし、時に議事録を改竄し、継続審議となった案件を承認済みと書き換えさせて意中の業者へ発注したりと、やりたい放題でした。

すべては、私利私欲のためでした。多くの理事の誰もが、何も言えません。言えば己の立場が危うくなり、言わずにいると、今以上の立場が保証されたからです。

異を唱える北村や政光以上に、坂口は裏で暗躍し、常に用意周到な準備をしています。先々を見越した根回しは坂口が最も得意とするところ。反目する理事たちに一時追い詰められたかに思えた坂口は、実は更なる手立てを既に講じています。

※実は、この小説のモデルとなった大学は、地元の人間なら大抵は名前ぐらいは知っている、「関西の有名私立大学」 と称される4つの中の1つであるらしい。そのうち京都にある2つの大学 - 「同志社」 と 「立命館」 は、実名で小説中に登場してきます。残るは、大阪と兵庫にある2つの大学のうちの1つで、実際に起こったことが書いてあります。

崇高であるはずの最高学府の理事会に響きわたる罵声 
果たして、談合屋理事長の悪行の数々を学校は自浄できるのか!?
- これは限りなく事実に近い小説です。

◆この本を読んでみてください係数 85/100

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