『その愛の程度』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『その愛の程度』(小野寺史宜), 作家別(あ行), 小野寺史宜, 書評(さ行)
『その愛の程度』小野寺 史宜 講談社文庫 2019年9月13日第1刷

職場の親睦会を兼ねたバーベキュー。娘の菜月が溺れるのを見て、とっさに川に飛び込んだ豊永の腕の中にいたのは、娘ではなく別の女の子だった。「お父さんは菜月をたすけてくれなかったもん」 その日から、血のつながりのない娘は口をきいてくれなくなり、七歳上の妻との関係もぎくしゃくし始めてしまい・・・・・・・。期待の新鋭が描く、新しい家族と愛の形。
愛を証明せよ。
人類最大級の難問に豊永守彦35歳が対峙する。(講談社BOOK倶楽部)
職場での話。豊永には二人で食事によく行く小池学くんという後輩がいます。小池くんは豊永の7つ下の28歳。彼が豊永を食事に誘うのは、それなりに理由があってのことでした。
食事の最中、小池くんは決まって自分の彼女の話をします。それはそれで構わないのですが、恋愛に関し、小池くんは 「かなり特異な」 考え方の持ち主で、彼の彼女に対する愛情の在り方は、事あるごとに豊永の意表をつきます。
品田くるみは、小池くんと同じ28歳。会社員。すごくきれい、らしい。
小池君が包み隠さず話すので、おれは小池くんと品田くるみのなれそめからこれまでのことを、おそらくほぼすべて知っている。
正直に言えば、小池くんが何故付き合っているのかわからない。
話を聞く限り、品田くるみはひどい女なのだ。二人が付き合っていなかったころでも、雨が降ってきただけで、小池くんを外出先の他県まで車で迎えに来させたりしたらしい。トイレの白熱電球が切れただけで、小池くんをアパートに呼びつけ、LED電球に交換させて、そのまま帰らせたりもしたらしい。その際、高価なLED電球代は払わなかったらしい。うまく立ちまわり、ぼくが出すよ、と小池くんに言わせたらしい。
こんな話を皮切りに、品田くるみは、小池くんに黙って小池くんの親友 (もちろん男性) と二人で飲みに行ったこと、自分の親友 (もちろん女性) とならいざ知らず、その弟と二泊三日の温泉旅行へ行ったこと、等々、およそ考えられない行動を平気でするにつけ、それでも彼女を庇い、彼女 (の言い分) を信じるという小池くんに対し、
豊永は目一杯のもどかしさを込め、心で、小池くん、学べよ。と叫ぶのでした。
二人の会話は微妙にズレたまま (そう感じているのは豊永だけですが)、難なく先へと進んでいきます。
豊永は、残念ながら小池くんが思うようにはいきません。年上の妻や血の繋がりのない娘に対し、(小池くんが品田くるみにするように) 半ば盲目的に愛せるかというと、そうはいきません。
相手を気遣うと、そこには自ずと溝が生じます。一度できてしまうと、溝はなかなか埋まりません。
愛とは、家族とは、親子とは、一体何なのでしょう? どんな愛し方をすれば、人を本当に愛することになるのでしょう。心から愛されていると、人は思うのでしょう。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆小野寺 史宜
1968年千葉県生まれ。
法政大学文学部英文学科卒業。
作品 2006年 「裏へ走り蹴り込め」 でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。 「ROCKER」 で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞。「ひりつく夜の音」「本日も教官なり」「みつばの郵便屋さん」、本書を第一作目とする 「近いはずの人」「それ自体が奇跡」 の夫婦三部作など。2019年 「ひと」 で本屋大賞2位。
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