『知らない女が僕の部屋で死んでいた』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『知らない女が僕の部屋で死んでいた』草凪 優 実業之日本社文庫 2020年6月15日初版

最下層の僕と高嶺の花だった彼女

 
目が覚めると、知らない女が自宅のベッドで、全裸で死んでいた。女は誰なのか、僕が殺したのか? 記憶を失った男は、女の正体を探る。前夜、神楽坂のバーでふたりで飲んだこと、女は中学時代の元同級生で、大企業の正社員であること、そして隠された暗黒の過去・・・・・・・。ふたりの間に何が起こったのか!? 怒涛の恋愛×官能×サスペンス、一気読み注意!! (実業之日本社文庫)

官能小説の第一人者、草凪優の 『知らない女が僕の部屋で死んでいた』 を読みました。『悪の血』、『どうしようもない恋の唄』 に続く三冊目。官能小説家が書く 「官能だけではない」 小説とはどんなものか? それを確かめてみたくなりました。

二人の主人公のうちの一人、南野蒼治は人と関わることが極端に苦手な人物で、かろうじて得た仕事がそれでした。それを今失おうとしています。彼は、いわゆる 「萌え絵」 を描くイラストレーターで、ゲームのキャラクターデザインなどを手掛けています。

蒼治は、過去にある悲惨な出来事を経験しています。そのせいでか、二次元の女性にしか興味が持てません。30歳になった今も実際のセックスに自信が持てず、女性と付き合うことなど、夢のまた夢の話でした。彼は、できれば死にたいと思っています。

もう一人の主人公・星奈千紗都と蒼治は中学時代の同級生でした。所沢西中では三年間ずっと同じクラスでしたが、特別仲がよかったわけではありません。千紗都は常にスクールカーストの上位層、その中でもトップに近い存在でした。

クラス委員を歴任し、成績もよければ運動神経も抜群、女子バレー部のエースであり、なによりその容姿がずば抜けていました。芸能プロダクションからスカウトがきている - そんな噂が絶えないほどの美少女でした。

そんな千紗都に対し、蒼治は最下層に位置していました。落ちこぼれだが不良にもなれない、中途半端なつまはじき者。登校し、授業を受け、給食を食べ、また授業を受けて下校する - その間、誰ともひと言も口をきかない日がざらにありました。

つまり、三年間同じクラスにいたとはいえ、蒼治と千紗都はほとんど接点がありません。何かにつけ 「立ち位置」 が違いすぎ、卒業して以来、二人は会ったこともなければ、SNSで繋がったこともありません。

そんな千紗都が、蒼治の部屋のベッドの上で、全裸のままで死んでいます。二人が十五年ぶりに再会した、翌日の朝のことです。

※さすがに “濡れ場” は特筆すべき出来栄えで、並大抵ではありません。映画ではないですが、はっきり言って “18禁” ものです。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆草凪 優
1967年東京生まれ。
日本大学芸術学部中退。

作品 「ふしだら天使」「どうしようもない恋の唄」「不倫サレ妻慰めて」「ルーズソックスの憂鬱」「悪の血」他

関連記事

『農ガール、農ライフ』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『農ガール、農ライフ』垣谷 美雨 祥伝社文庫 2019年5月20日初版 大丈夫、ま

記事を読む

『ニュータウンは黄昏れて』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『ニュータウンは黄昏れて』垣谷 美雨 新潮文庫 2015年7月1日発行 バブル崩壊前夜に買ってしま

記事を読む

『やわらかな足で人魚は』(香月夕花)_書評という名の読書感想文

『やわらかな足で人魚は』香月 夕花 文春文庫 2021年3月10日第1刷 一体どう

記事を読む

『夫のちんぽが入らない』(こだま)_書評という名の読書感想文

『夫のちんぽが入らない』こだま 講談社文庫 2018年9月14日第一刷 "夫のちんぽが入らない"

記事を読む

『水やりはいつも深夜だけど』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『水やりはいつも深夜だけど』窪 美澄 角川文庫 2017年5月25日初版 セレブマ

記事を読む

『純子』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『純子』赤松 利市 双葉社 2019年7月21日第1刷 四国の辺鄙な里に生まれた純

記事を読む

『自覚/隠蔽捜査5.5』(今野敏)_書評という名の読書感想文

『自覚/隠蔽捜査5.5』今野 敏 新潮文庫 2017年5月1日発行 以前ほどではないにせよ、時々

記事を読む

『そして、海の泡になる』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『そして、海の泡になる』葉真中 顕 朝日文庫 2023年12月30日 第1刷発行 『ロスト・

記事を読む

『夜の谷を行く』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『夜の谷を行く』桐野 夏生 文芸春秋 2017年3月30日第一刷 39年前、西田啓子はリンチ殺人の

記事を読む

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』(北川恵海)_仕事や人生に悩む若いあなたに

『続々・ヒーローズ (株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2019年12月25日初版

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『天使のにもつ』(いとうみく)_書評という名の読書感想文

『天使のにもつ』いとう みく 双葉文庫 2025年3月15日 第1刷

『救われてんじゃねえよ』(上村裕香)_書評という名の読書感想文

『救われてんじゃねえよ』上村 裕香 新潮社 2025年4月15日 発

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑