『肉弾』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『肉弾』(河﨑秋子), 作家別(か行), 書評(な行), 河﨑秋子

『肉弾』河﨑 秋子 角川文庫 2020年6月25日初版

大学を休学中の貴美也は、父親に反発しながらもその庇護下から抜け出せずにいた。北海道での鹿狩りに連れ出され、山深く分け入ったその時、父子は突如熊の襲撃を受ける。息子の眼前でなすすべなく腹を裂かれ、食われていく父。どこからか現れた野犬の群れに紛れ1人逃げのびた貴美也は、絶望の中、生きるために戦うことを決意する。圧倒的なスケールで人間と動物の生と死を描く、第21回大藪春彦賞受賞作。(角川文庫)

「怒涛のエンターテインメント」 としては悪くありません。ただ、語られるテーマの多さはいかがなものか。熊と犬の話以外はおしなべて凡庸で、かえって物語を薄味にさせてしまうのではと。そんな感じがしなくもありません。「人間と動物との関係がきわめて暴力的に、しかも意図的に野卑なかたちで介入し、読者を巻き込んでゆく」 だけで十分ではないかと。

本書は、人間と熊と犬が繰り広げる極限の物語である。場所は北海道の山中 (摩周湖周辺の森林地帯)、描かれるのは四日間の一部始終。読者はつねに、低い唸り、骨の軋み、肉と肉がぶつかり合う音に鼓膜を震わせることになる。と同時に伝わってくるのは、肉弾が飛び交うありさまから目を逸らさせはしないと腹を括った著者の気魄だ。

二十歳の青年キミヤ (貴美也) が遭遇する事態は悪夢さながら、生死を賭けた通過儀礼である。ライフル銃を担いで狩猟に出る父に連れられ、カルデラの中心部へ足を踏み入れてゆくのだが、父と息子とのあいだにはあらかじめ鬱屈した感情が蓄積している。

父は、キミヤからことごとく日常を奪う相手であり続けてきた。(中略) 自分を肯定できず無気力に苛まれるキミヤは、父に強引に勧められるまま銃砲所持許可と狩猟免許を取得。狩猟をもくろんで北海道にやってきたふたりの前に、突如、巨大な熊が立ちはだかって - 。(解説より抜粋)

とまあ、話はこんな感じで進んでゆきます。間に別の話を挟んで、熊、犬、熊、犬、・・・・・・・、犬、犬、熊、と進みます。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆河﨑 秋子
1979年北海道別海町生まれ。
北海学園大学経済学部卒業。

作品 「東陬遺事」「颶風の王」「土に贖う」など

関連記事

『八号古墳に消えて』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『八号古墳に消えて』黒川博行 創元推理文庫 2004年1月30日初版 降りしきる雨の中、深さ4

記事を読む

『蜃気楼の犬』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

『蜃気楼の犬』呉 勝浩 講談社文庫 2018年5月15日第一刷 県警本部捜査一課の番場は、二回りも

記事を読む

『農ガール、農ライフ』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『農ガール、農ライフ』垣谷 美雨 祥伝社文庫 2019年5月20日初版 大丈夫、ま

記事を読む

『玉蘭』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『玉蘭』桐野 夏生 朝日文庫 2004年2月28日第一刷 ここではないどこかへ・・・・・・・。東京

記事を読む

『魂萌え! 』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『魂萌え! 』桐野 夏生 毎日新聞社 2005年4月25日発行 夫婦ふたりで平穏な生活を送っていた

記事を読む

『鵜頭川村事件』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『鵜頭川村事件』櫛木 理宇 文春文庫 2020年11月10日第1刷 墓参りのため、

記事を読む

『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版 3ヶ月前、マンションの一室でアサミ

記事を読む

『砂に埋もれる犬』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『砂に埋もれる犬』桐野 夏生 朝日新聞出版 2021年10月30日第1刷 ジャンル

記事を読む

『絵が殺した』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『絵が殺した』黒川 博行 創元推理文庫 2004年9月30日初版 富田林市佐備の竹林。竹の子採り

記事を読む

『女たちの避難所』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『女たちの避難所』垣谷 美雨 新潮文庫 2017年7月1日発行 九死に一生を得た福

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑