『八号古墳に消えて』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『八号古墳に消えて』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(は行), 黒川博行
『八号古墳に消えて』黒川博行 創元推理文庫 2004年1月30日初版
降りしきる雨の中、深さ4メートルもある遺跡発掘現場の壁面が崩壊し、崩れ落ちた土砂の中から発掘責任者である大学教授の死体が発見された。事故かと思われたが、死体の気管と食道から採取された泥は現場のものではなかった。大阪府警捜査一課が捜査を進めるなか、別の遺跡発掘現場でも調査員が撮影用の櫓から落ち、不可解な死を遂げる・・・。大阪府警の黒木・亀田両刑事、通称〈黒マメコンビ〉が、金と欲に毒された考古学界の内幕を暴き、遺跡発掘と大学のポストをめぐる連続殺人事件に挑む! 軽妙な会話とトリッキーな趣向の「大阪府警捜査一課」シリーズ、黒マメコンビ第3弾! (創元推理文庫解説より)
比較的最近の作品とデビュー当初の作品を交互に読み返しています。で、今回はデビューして4年目に発表された少し昔の作品 -『八号古墳に消えて』を紹介します。
タイトルからもおわかりのように、テーマは遺跡の発掘。事件は大阪八尾市竹淵にある遺跡発掘現場に始まり、富田林の甲田遺跡、最終的には奈良県御所市に位置する、通称〈巨摩山(こまやま)〉山麓に点在する古墳群へと連なって行きます。
事の起こりは、11月2日、午前8時。降りしきる雨の中、E6トレンチ(試掘溝)の東側面が崩壊しているのを発掘補助員が発見し、見ると崩れた土砂の下に黒いレインシューズがあり、事故を直感してトレンチ内に降りると、そこに人が埋まっています。
遺体の身元はすぐに判明します。大阪文科大学文学部国史学科教授、浅川亮介、53歳。浅川はここ竹淵遺跡発掘の総責任者です。検死の結果、浅川の死亡原因は窒息死。死亡推定日時は、昨日11月1日の午後9時から11時の間と判定されます。
はじめ、浅川の死は事故であろうとの見方がなされます。トレンチ内を調査する内、前日から降り続く雨によって土層のゆるんだ壁面が崩れ落ち、その下敷きになったのではないかと考えられたのですが、捜査が進むにつれて、それに対する否定要素が増えてゆきます。
なぜ浅川は日も暮れて誰もいない現場へわざわざ来る必要があったのか。しかも服装は背広にカッターシャツとネクタイ。発掘用の道具が散らばっていたとはいえ、どう見ても作業のための服装だとは思えません。普通なら合羽を着るのに、傘があるのも変です。
さらには遺体の右後頭部に内出血があり、(これが最大の疑問点なのですが)E6トレンチの東地表面には雨による土砂崩れを避けるためのナイロン製防水シートがかけられていたにもかかわらず、死体発見時、シートは折りたたまれて別のところにあったのです。
これらを踏まえ、浅川は殺された後トレンチ内に遺棄されたか、あるいは生きながら埋められたのではないかとの疑いが生じ、死体は司法解剖に付されることとなります。
・・・・・・・・・・
浅川率いる「文科大学浅川研究室」のメンバーは6名 -
今村浩郎 - 助教授。専攻、考古学、縄文式文化。39歳。
植田俊孝 - 嘱託。専攻、東洋史、上代武器。42歳。
榎本良雄 - 非常勤講師。専攻、美術史。文科大東洋史研究室より出向。48歳。
片岡 悟 - 非常勤講師。専攻、人類学、解剖学。私立甲陽大医学部より出向。39歳。
高橋正人 - 助手。専攻、考古学、弥生式文化。30歳。
秦野史子 - 助手。専攻、考古学、服飾、工芸史。28歳。
しばらくした後、浅川が死んだのは竹淵ではなく甲田遺跡であることが判明し、その甲田遺跡で、今度は嘱託の植田俊孝が命を落とします。その状況にも不可解な点があり、次に行き当たるのが甲田遺跡の発掘主任をしている余沢という男。
余沢は、実は浅川教授とは浅からぬ縁で、5年前まで浅川研究室に在籍していた人物です。
今は大学を出て、大阪考古学研究所の副所長という要職にあります。考古学研究所の所長は山根研一郎という人物で、山根は関西における考古学界の実力者3人の内の1人です。
その山根の娘が、死んだ浅川の妻・・・となれば、いかばかりか考古学界も狭い世界であるのがわかります。学閥と縁故で連なった派閥が一大勢力となったからには、研究成果だけでは中々に出世はできない、理不尽な世界であるのが見て取れます。
・・・・・・・・・・
当初、事件は浅川研究室内における権力争いの結果引き起こされたものだと考えられ、大筋においてそれはその通りなのですが、事はそう簡単には収まりません。
人の欲、人に対する嫉妬が幾重にも絡む、しかも素人にはおよそ縁のない世界で発生した連続殺人事件に挑むのが大阪府警の黒木・亀田両刑事、通称〈黒マメコンビ〉です。彼らは真面目に捜査もするのですが、時にこんなアホ気な会話もしています。
「マメちゃん、天王寺に何ぞ用があるんかい」
「ターミナルビルの名画座でね、今、『アンタッチャブル』をやってますねん。あれ今日までやし、見逃したら一生悔いが残る」「ビデオで見たらええやないか」
「映画いうのはね、黒さん」- マメちゃんは立ち上った。
「勤務中に見るからこそおもしろいんですわ」
この本を読んでみてください係数 85/100
◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。現在大阪府羽曳野市在住。京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
作品 「二度のお別れ」「左手首」「雨に殺せば」「ドアの向こうに」「絵が殺した」「迅雷」「離れ折紙」「悪果」「疫病神」「国境」「螻蛄」「文福茶釜」「煙霞」「暗礁」「破門」「後妻業」「勁草」他多
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