『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『死ねばいいのに』(京極夏彦), 京極夏彦, 作家別(か行), 書評(さ行)
『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版
3ヶ月前、マンションの一室でアサミという女が謎の死を遂げた。彼女について知りたいと執拗に問いかける、若い男。派遣社員だった彼女と同じ職場にいた中年男・山崎、彼女のマンションの隣人だった女性・篠宮、彼女と〈個人的な〉関係にあった三十路をすぎた下っ端暴力団組員・佐久間、彼女の母親の尚子・・・。
ある日突然現れる若い男の無礼な問いかけの言葉の数々に、みな心を掻き乱され、じわじわと自身の嘘に追い詰められていく。アサミのまわりの人間に次々と接触していく彼は、一体何者なのか。若い男の追及に大人たちは自分の業をさらけ出し、やがてひとつの真実が浮かび上がってくる-。(「ダ・ヴィンチ」誌掲載のあらすじ紹介より)
登場人物は皆、死んだアサミ(亜佐美)と浅からぬ関わりを持つ者ばかりです。彼らの前に、ケンヤと名乗る今どきの青年が突然現れます。ケンヤはいかにもチャラい物言いで、彼らに向かって生前の彼女のことを聞かせてほしいと迫ります。
しかし、ケンヤに対して彼らが語るのは自分自身のことばかりで、死んだアサミを悼むどころか、不遇な自身の日常を呪い、周囲の人間を恨み蔑む言葉を吐くばかりです。自分の落ち度を棚に上げ、自分は悪くないんだと必死になって訴えます。
例えば、一人目の山崎の場合。
「お前みたいな人間に解るかよ。私の苦労が。嫌でも辞められないんだよ。辛くても別れられないんだよ。辛くて辛くてやってられないけど、もう限界だけど、それでも止められないんだ馬鹿野郎」
お前なんかに解らない、と繰り返し叫ぶ山崎。言われたケンヤは、「ならさ」
-死ねばいいのに。
・・・・・・・・・・
という小説です。
物語は〈一人目。〉から〈六人目。〉まで、6つの章で構成されています。山崎、篠宮、佐久間、アサミの母親ときて、五人目が警察官。そして最終、六人目に登場するのは弁護士です。
ケンヤがアサミの話を尋ねて回った連中は、みんな死ねばいいのにと言うと、嫌だと言います。
それはきっと普通のことで、誰もが生きたいに決まっています。未練たらたらで、不満だらけで、自分は不幸だと言うのは当たり前。それでも人間は生きている。生きるために生きているから、死にたくなんかないのです。
でも、万が一、
・・・死ねばいいのに、と誰かに言って、
・・・そうね、死にたい、・・・などと相手が応えたとしたら、
そのとき、人は、一体どんなリアクションをとればいいのかしら?
この本を読んでみてください係数 85/100
◆京極 夏彦
1963年北海道小樽市生まれ。
北海道倶知安高等学校卒業。専修学校桑沢デザイン研究所中退。
作品 「鉄鼠の檻」「魍魎の匣」「嗤う伊右衛門」「百鬼夜行-陰」「覘き小平次」「後巷説百物語」「邪魅の雫」「西巷説百物語」他多数
◇ブログランキング
関連記事
-
-
『物語が、始まる』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『物語が、始まる』川上 弘美 中公文庫 2012年4月20日9刷 物語が、始まる (中公文庫
-
-
『線の波紋』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
『線の波紋』長岡 弘樹 小学館文庫 2012年11月11日初版 線の波紋 (小学館文庫)
-
-
『祝福の子供』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文
『祝福の子供』まさき としか 幻冬舎文庫 2021年6月10日初版 祝福の子供 (幻冬舎文庫
-
-
『恋』(小池真理子)_書評という名の読書感想文
『恋』小池 真理子 新潮文庫 2017年4月25日11刷 恋 (新潮文庫) 1972年冬。全
-
-
『路上のX』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『路上のX』桐野 夏生 朝日新聞出版 2018年2月28日第一刷 路上のX こんなに叫ん
-
-
『慈雨』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文
『慈雨』柚月 裕子 集英社文庫 2019年4月25日第1刷 慈雨 (集英社文庫) 警察
-
-
『新宿鮫』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文(その1)
『新宿鮫』(その1)大沢 在昌 光文社(カッパ・ノベルス) 1990年9月25日初版 新宿鮫
-
-
『嫌な女』(桂望実)_書評という名の読書感想文
『嫌な女』桂 望実 光文社文庫 2013年8月5日6刷 嫌な女 (光文社文庫) 初対面
-
-
『泥濘』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『泥濘』黒川 博行 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 泥濘 疫病神シリーズ 「待たんかい
-
-
『静かな炎天』(若竹七海)_書評という名の読書感想文
『静かな炎天』若竹 七海 文春文庫 2016年8月10日第一刷 静かな炎天 (文春文庫) ひ