『陽だまりの彼女』(越谷オサム)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/12
『陽だまりの彼女』(越谷オサム), 作家別(か行), 書評(は行), 越谷オサム
『陽だまりの彼女』越谷 オサム 新潮文庫 2011年6月1日発行
幼馴染みと十年ぶりに再会した僕。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、僕には計り知れない過去を抱えているようで - その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる! 誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさも、すべて詰まった完全無欠の恋愛小説。(新潮文庫)
「女子が男子に読んでほしい恋愛小説NO.1」かどうかはさておき、随分と評判な本であるらしい。
読むと、なるほどそういうことかというのは分かります。但しです。途中でやめたら(おそらくは)単に甘いばかりの恋愛話にしか思えないだろうと思います。たいして若くもない私などは、気恥ずかしさが先に立ってどうにも読んでいられなくなるような・・・・
なんかそう言えば少し前にテレビドラマで観たような。ついでに思い出したのですが、もしかしたら何年か前に私は一度この本を手にしたことがあるんじゃないかと。
こういうことはままあるのですが、どうやら(前述した理由により)きっと途中で投げ出して、そのまま読まずにいた本の中の一冊であるらしい。それをすっかり忘れ、たまたま最近読んだ『金曜のバカ」』がことのほか面白かったのと、
その時目にした著者の代表作がこの小説で、これは読まずにおくまいと勇んで買って帰ったまではよかったのですが、気付けばこんな始末で、およそつもりのない「二度買い」ほど間抜けなことはないという話 - と、そんなことはどうでもいいのですが、
では、二度目にして読み切ったあとの感想はというと・・・・、
やっぱり、甘い! 甘すぎる!! -(せめてもう少し若い頃ならと思わずにいられません)
彼女(渡来真緒)はまことに可愛い女子で、彼(奥田浩介)はこの上なく優しい男子であるに違いありません。二人はかつて中学の頃に知り合い、ある時期二人きりの特別な日々を過ごしたことがあります。
その後音信不通となり、二人が再び出会うことになるのは社会人になってからのこと。その時真緒は、近年成長著しい準大手のランジェリー・メーカー、「ララ・オロール」の広報担当として働いています。一方の浩介はというと、交通広告代理店「日本レイルアド社」に就職し、営業担当をしています。
浩介がたまたま上司に連れられてやって来たのが真緒のいるララ・オロール社で、真緒と浩介は長いときを経たあと奇跡のようにして再会を果たします。ところが浩介は、中学の頃と比べあまりの真緒の変わり様に言葉を失くすほどに驚いてしまいます。
あのチビで、いじめられっ子で、注意力が散漫で、すばしっこさだけが取り柄だった真緒が、さらに言うなら、浩介が不遇の中学時代を過ごす元凶でもあった真緒が、なんだかとんでもなく成長して再び浩介の前に姿を現わしたのでした。
・・・・・・・・・
ここから先、二人は(中学時代の回想を挟みつつ)いよいよ「あま~いあま~い」関係へと突入して行きます。
ここら辺りからが女子をして胸をときめかせ、浩介のような男子こそNO.1と思わしめる読みどころではあるのでしょう。が、何度も言うようで恐縮ですが、その甘ったるいばかりのやり取りのあれこれは、(かつて自分もそうだったろうかと思い返すと尚更に)恥ずかし過ぎて目を覆いたくなるほどラブラブで、
(今ならこんなままで終わるはずがないと確信をもって思えるのですが)おそらく、最初私はここで読むのをやめたのだと思います。今更ですが、話はきちんと最後まで読んでこその話で、このあと予想もしない展開が待ち受けています。
そういえば、ところどころに真緒は思わぬ言動をしたりします。中学時代「学年有数のバカ」と呼ばれ、浩介以外に相手にされなかった彼女は、後に東大を受験するまでになります。
残念ながら合格は叶わず、仕方なく都内の名門女子大に進学し、その後ララ・オロール社へ就職しています。かつての浩介が知る姿とはまるで違う、目を瞠るばかりの真緒の変身ぶりを前にして、浩介は再会するまでの空白の時間を限りなく惜しんだりもします。
真緒の、これらの背景にある秘密こそが、ラストにかかるとんでもない結末へと連なっているのを知らないまま(途中で)読むのをやめるのはとてももったいない。私のような二度手間をしないためにも、どうか最後まで読み切ってください。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆越谷 オサム
1971年東京都足立区生まれ。
学習院大学経済学部中退。
作品 「ボーナス・トラック」「階段途中のビッグ・ノイズ」「金曜のバカ」「空色メモリ」「せきれい荘のタマル」「いとみち」他
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