『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その1

公開日: : 最終更新日:2015/11/09 『ブラックライダー』(東山彰良), 作家別(は行), 書評(は行), 東山彰良

『ブラックライダー』(その1)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行


ブラックライダー(上) (新潮文庫)

 

ここは、地球の歴史が一度終わったあとに始まった、新しい世界。人を食糧とする者と許さない者。カウボーイと保安官。人と牛の子。蔓延する蟲。異形の王。慈悲による虐殺。大討伐軍。突き抜けた絶望の先に咲く、希望の花 - 。覚醒した才能が、全力を注ぎ込み創り上げた、前人未到の領域を堪能すべし。考えるな、感じろ! (新潮社解説より)

小説の舞台は北米大陸、時代は近未来。冒頭でいきなり登場する、「ローマ・カトリック教皇庁により権限を賜りしブエノスアイレス列聖審問十五人委員会」の通達には、2241年2月24日とあります。

まごうことなき未来小説で、世の中の様子は著しく変化を遂げているわけですが、(すでにお気付きだとは思いますが)進化した世界の話ではありません。

この小説で語られる未来は、核戦争や地殻変動によって生態系が崩壊し、それに併せて人が人として生きて行く上での、そもそもの秩序や規範といったものまでがなしくずしになり、例えば、生き長らえる手段として普通に人が人の肉を喰らうような「未来」なのです。

まるで時代が退行したような、そんな未来のアメリカ西部を舞台にした物語、それが『ブラックライダー』です。小説はかつて観た外国の活劇のよう。そうです、まさしくあの西部劇を観ているような味わいの中で、暫しの間枠外の空間を漂うことになります。
・・・・・・・・・・
とまあ、ここまで書いたのはいいのですが、読んだのはまだ文庫の上巻、それもやっと100ページを過ぎた辺りまでのことです。物語の入り口しか知らない状態なのですが、それでも何だか無性に書きたくなって、仕方がないのでこうして書き始めています。

主人公-でいいと思うのですが-の保安官バード・ケイジが運命の女性コーラと出逢い、懇ろになって、「あたし、決めた」「あなたといっしょにユマへ行くわ」などと、それでなくとも危険極まりない、しかしバードには心躍る宣言を彼女がしたばかりのところです。

「世界は瀕死だが、まだ息絶えちゃいない」。〈六・一六〉により文明を失ったアメリカ大陸。生き残った者は人と牛を掛け合わせた〈牛〉を喰って命を繋ぐ。保安官バード・ケイジは、四十頭の馬を強奪したレイン一味を追い、大西部を駆ける。道すがら出逢ったのは運命の女コーラ。凶兆たる蟲の蔓延。荒野に散るのは硬貨より軽い命。小説の面白さ、その全てを装填した新たなる黙示録。(新潮文庫・上巻の解説より)

〈六・一六〉というのが、おそらく当時のアメリカで勃発した核戦争、あるいは地殻変動のことだと思います。次の「人と牛を掛け合わせた〈牛〉」というのは、人間の精子を牛の子宮に埋め込んで、食用に作られた人と牛との雑交種のことです。

カンザスシティの保安官バード・ケイジは、悪名高いレイン一味を追いかけて、今大西部の真っ只中にいます。その道中、列車の中で出逢ったのが「ミセス・ライト」と名乗る長老派教会の婦人・・・だったのですが、実はこの女性こそがコーラその人です。
・・・・・・・・・・
この辺りまでは結構真剣に読んでいたのです。が、「コーラ」というのがいかにも可笑しな名前で、変だと思っていたらその思いのままに、フルネームは「コカ・コーラ」だと言うではありませんか!! これはまた、何ともふざけたネーミング・・・

と思ってよくよく見直してみると、保安官の名前が「バード・ケイジ」とは、もしや「鳥かご」のことではないですか。他にも「フロッギー・ニプルズ」(蛙みたいな乳首)なんて名前の保安官補(もちろん男性です)も出てきます。

私が気付かないだけで、他にもこの手の名前があるのかも知れませんし、後で登場するやも知れません。コーラがなぜコーラと名付けられたのかというくだりがあるのですが、ついでのようにして、バーガー・キングとマクドナルドの話などというのも出てきます。

バードが言うには、昔デトロイトで会ったことがある、コカ・コーラのレシピを探しているという男の名前がバーガー・キングで、キングは結局銃で撃たれて死んでしまうのですが、彼を撃ち殺したのがマクドナルドという奴だった、というお話。

ありもしない作り話とふざけたネーミングのオンパレードですが、一体何を食べて、どんな暮らしをしたらこんな話を思いつくのか、作者の東山彰良さんに聞いてみたいものです。ちなみに、コーラが「コカ・コーラ」と名付けられたのには、こんな事情があります。

パパが子供の頃にお祖父ちゃんからコカ・コーラの話を聞きました。冷たくって、口のなかでパチパチはじけて、それはそれは美味しいジュースだったと聞いて、ずっと飲みたくてしようがなくて、それで娘にこんな名前をつけてしまった、ということです。

〈新たなる黙示録〉などという大仰な文句につい力が入りますが、そこは直木賞作家、硬軟織り交ぜた文章で案外楽に読めそうです。土日にかけて一気に読破し、週明けには必ずや真っ当な(その2)を書く予定でおります。まずはここまでということで。

 

書評は二部構成です。(完成しました。)
『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その2はこちら

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ブラックライダー(上) (新潮文庫)

◆東山 彰良
1968年台湾生まれ。5歳まで台北、9歳で日本に移る。福岡県在住。本名は王震緒。
西南学院大学大学院経済学研究科修士課程修了。吉林大学経済管理学院博士課程に進むが中退。

作品「逃亡作法 TURD ON THE RUN」「路傍」「流」「ラブコメの法則」「キッド・ザ・ラビット ナイト・オブ・ザ・ホッピング・デッド」など

関連記事

『薄情』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『薄情』絲山 秋子 河出文庫 2018年7月20日初版 薄情 (河出文庫) 地方都市に暮らす

記事を読む

『カルマ真仙教事件(上)』(濱嘉之)_書評という名の読書感想文

『カルマ真仙教事件(上)』濱 嘉之 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 カルマ真仙教事件(

記事を読む

『カエルの楽園』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『カエルの楽園』百田 尚樹 新潮文庫 2017年9月1日発行 カエルの楽園 (新潮文庫) 平

記事を読む

『ピンザの島』(ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『ピンザの島』ドリアン 助川 ポプラ文庫 2016年6月5日第一刷 ピンザの島 &nbs

記事を読む

『ぼくとおれ』(朝倉かすみ)_たったひとつの選択が人生を変える。ってかあ!?

『ぼくとおれ』朝倉 かすみ 実業之日本社文庫 2020年2月15日初版 ぼくとおれ (実業之

記事を読む

『イノセント・デイズ』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『イノセント・デイズ』早見 和真 新潮文庫 2017年3月1日発行 イノセント・デイズ (新潮

記事を読む

『望郷』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『望郷』湊 かなえ 文春文庫 2016年1月10日第一刷 望郷 (文春文庫)  

記事を読む

『走ル』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『走ル』羽田 圭介 河出文庫 2010年11月20日初版 走ル (河出文庫)  

記事を読む

『八月六日上々天氣』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文

『八月六日上々天氣』長野 まゆみ 河出文庫 2011年7月10日初版 八月六日上々天氣 (河出

記事を読む

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『ポイズンドーター・ホーリーマザー』湊 かなえ 光文社文庫 2018年8月20日第一刷 ポイズ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷

『ブルーもしくはブルー』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『ブルーもしくはブルー』山本 文緒 角川文庫 2021年5月25日改

『天国までの百マイル 新装版』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『天国までの百マイル 新装版』浅田 次郎 朝日文庫 2021年4月3

『七怪忌』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『七怪忌』最東 対地 角川ホラー文庫 2021年4月25日初版

『1リットルの涙/難病と闘い続ける少女亜也の日記』(木藤亜也)_書評という名の読書感想文

『1リットルの涙/難病と闘い続ける少女亜也の日記』木藤 亜也 幻冬舎

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑