『中尉』(古処誠二)_書評という名の読書感想文

『中尉』古処 誠二 角川文庫 2017年7月25日初版発行

敗戦間近のビルマ戦線にペスト囲い込みのため派遣された軍医・伊与田中尉。護衛の任に就いたわたしは、風采のあがらぬ怠惰な軍医に苛立ちを隠せずにいた。しかし、駐屯する部落で若者の脱走と中尉の誘拐事件が起こるに及んで事情は一変する。誰がスパイと通じていたのか。あの男はいったい何者だったのか - 。一筋縄ではいかない人の心を緊迫状況の中に描き出し、世の不条理をあぶり出した戦争小説の傑作。解説・片山杜秀 (角川文庫)

たまにですが、戦争の話を読みたいと思うときがあります。何気に買って驚いたのは、著者がとても “若い” ということ。実際に戦争を知らない人が書いた戦争の話だということです。試しに読んでみてください。見てきたようなリアルさに脱帽すると思います。

古処誠二ほど軍隊を書ける作家が、いま、他にいるだろうか。

彼がなぜ軍隊を書けるのか。1970年生まれだというのに。やはり自衛隊での経験を血肉とし、そこから旧帝国軍隊を想像し叙述する能力を高い精度で鍛え上げてきたからというほかないだろう。とにかく彼は唯一無二の例外的存在である。しかもその例外性とは、戦後四半世紀も経って生まれた世代だというのに肌で旧軍を知る世代に負けないリアリティで軍隊を書けるから凄いという話には、無論とどまらない。戦後幾十年も経たからこそ改めて問えることがある。再考すべき事柄がある。そうした挑戦的性格を古処の文学はしっかりと有している。そこが凄いのである。

『中尉』 はそんな古処文学の中でもキラ星のごとき傑作だろう。この小説は種々の先行作を思い出させる。アヘン中毒かと思わせる軍医の出てくるところは有馬頼義の 『赤い天使』 とか。だが 『中尉』 と比較されるべきなのはやはりあの名作だと思う。銃後の東京で旧制高校の教授を務めていた竹山道雄が、敗戦直後から書き始め、1948年に完成させた 『ビルマの竪琴』 である。日本陸軍の水島上等兵がビルマ (ミャンマー) 人の僧侶のなりをし竪琴を弾いてビルマの方々を巡り、遠い異国に没した日本軍将兵を慰霊しつつ平和を祈る、戦後の日本と世界の行く道を示した、極めて理想主義的な児童文学である。(片山杜秀/解説より)

※水島上等兵も伊与田中尉も、ともに現地人と見分けがつかないくらいにビルマ人に、ビルマという国に馴染んでいたということ。二人ともに軍隊を離れて失踪し、白骨街道と呼ばれた日本軍敗走の道筋を辿り、日本兵の無数の遺体と出会います。その過程で、おそらく彼らは、それから先の自分の進むべき人生を見定めたのでしょう。敢えて故郷を捨ててまでする、それは固い覚悟の上でのことでした。

注:『中尉』 は児童文学ではありません。解説の片山氏は、二つの作品には共通点が多くあること、そしてビルマという異国を母国の日本以上に愛した人物の物語として 『ビルマの竪琴』 を紹介し、二つを比較対照したのだと思います。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆古処 誠二
1970年福岡県生まれ。
高校卒業後、様々な職業を経て、航空自衛隊入隊。2000年4月、作家デビュー。

作品 「いくさの底」「ルール」「七月七日」「分岐点」「接近」「少年たちの秘密」他多数

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