『とかげ』(吉本ばなな)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2017/02/12 『とかげ』(吉本ばなな), 作家別(や行), 吉本ばなな, 書評(た行)

『とかげ』吉本 ばなな 新潮社 1993年4月20日発行


とかげ (新潮文庫)

 

よしもとばななが好きである。(この小説が発刊された時点での表記は「吉本ばなな」です)

 

私のような年齢の方だと、吉本ばななと言えば父親の吉本隆明の名前抜きでは語れない人物ではないでしょうか。

昔々の大学生だった頃、吉本隆明と言えば当時多くのインテリ、もしくはインテリ気取りの若者にとっては一種の教祖的存在でした。

1968年に河出書房新社から刊行された『共同幻想論』は、彼等にとってまさしく「聖書」的な本だったのです。

人が人で在ることの根源を論じた思想家を父親に持つ娘が、後年同世代の女性から圧倒的な支持を集める小説家になった血筋をどうしても感じずにはいられないのです。

単純に親子として似ているというようなことではなく、周囲に漂う文学的な空気を嗅ぎ取り培った結果、娘が父親と同じ文筆業を選んだ経緯と才能に感心するのです。

 

『とかげ』は6編からなる短編集です。解説では、それぞれ「癒し」をテーマにした作品だということですが、この人の作品には所謂湿った抒情感は希薄です。

運命のようなもの、一人の孤独をさらに掘り下げようとする小説が圧倒的に多いように思いますが、そこには独自の匂いというか空気感があります。

透明で、どちらかと言えば乾燥していて冷静です。

唐突ですが、例えば表題のラスト。とかげ(病院で働く男性が、恋をする相手の女性につけた愛称)が静かに眠りにつく場面での一行です。

子供のように眠るとかげを前に、「私はそれをしばらく眺め、2人の子供時代のために数分間泣いた。」と閉じるのです。

・・・吉本ばななの読者は、たぶん、これにやられるのです。

 

何れも短い作品ばかりで中身を書くとほぼネタバレになりますので省略しますが、吉本ばななを初めて読もうかと思う方にも適当な一冊かも知れません。

強烈なインパクトはありませんが、彼女が伝えようとする本質はどのストーリーからも明確に読み取れます。

非現実的な設定などもありますが、その設定を着想した作者の思惑を想像しながら読んでみてください。嫌味がないので、ほんとに読みやすいですよ。

 

追記:この小説はリメイクされて、14年後に『ひとかげ』という一冊の単行本になります。進化した「とかげ」をみてみたいという方は、ぜひ。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


とかげ (新潮文庫)

◆よしもと ばなな

1964年東京都文京区生まれ。本名:吉本真秀子(よしもとまほこ)

日本大学芸術学部文芸学科卒業。

父は批評家、詩人の吉本隆明。姉は漫画家のハルノ宵子。

作品 「キッチン」「ムーンライト・シャドウ」「うたたか/サンクチュアリ」「TUGUMI」「アムリタ」「不倫と南米」「ハゴロモ」「デッドエンドの思い出」他多数

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