『土の中の子供』(中村文則)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2015/05/13 『土の中の子供』(中村文則), 中村文則, 作家別(な行), 書評(た行)

『土の中の子供』 中村 文則 新潮社 2005年7月30日発行


土の中の子供 (新潮文庫)

 

中村文則が気になります。

 

この人の小説は大体が暗くて、難解です。ドストエフスキーやカミュ、カフカなどの影響を受けているというのですから言わずもがなです。

私はおそらくこの本を出版直後に買っていますが、中村文則という名前も初めてなら、芥川賞を受賞していることさえ知りませんでした。

読み出してみると、えらく深刻な内容で、書出しだけざっと眺めた印象とはまるで別物なのに戸惑ったことをよく憶えています。

以後認識をきっちり改めて、この作家の小説に向き合おうとするのですが、悲しいかな未だに右往左往しています。

『土の中の子供』についても、正直何から感想を書き出して、どこを着地にすればよいのか分からないのです。

作家が伝えようとするものが非常に普遍的な心象なので、行間に詰め込まれたメッセージを正しく掴まえるのに難儀します。

・・・・・・・・・・・

主人公が暴走族に囲まれ、激しく痛めつけられる場面から物語は始まります。

きっかけは、煙草の吸殻をわざと彼等に向かって投げつけたことで、その結果受けるであろう暴行も予測した上での行為でした。

わざと自分を危険に晒し、不利な状態に陥ることを主人公の「私」は幾度となく繰り返していました。

激しい暴力に対して恐怖するものの、「怖さのあまり脱力して、心臓の鼓動が苦しくなり、痙攣する背筋」の感覚を「悪くない」と感じている「私」がいるのです。

傷つけられた先の究極にある快感や安堵を期待する自分を「私」は明らかに意識しているのでした。

 

子供時代に受けた虐待とその虐待から救われた施設での話が、27歳になる現在の「私」の原点として語られます。

「恐怖に乱され、故に恐怖に依存する」ことから抜け出せないままの現在の自分と過去の体験を重ねるシーンです。

高所から落下する空缶やトカゲに「私」がイメージするもの、「私は土の中から生まれた」と言わしめるものの発露がそこに存在しています。

 

かつての同僚・白湯子と「私」は同居していますが、決して積極的な理由からではなく、行き場を失くした白湯子をはずみで迎え入れた格好です。

深い愛情で結ばれているわけではない白湯子と同居を続ける「私」の心情は、正直分かりづらいところです。

ただ、この小説で「私」はあくまでひとり自分の内面と向き合い自分に語りかけているのですが、白湯子は唯一質感のある他者です。

心通うとまでは行かずとも、生身の白湯子が「私」にとって当面の救いをもたらす存在として描かれているならいいなと思うのです。

 

尚、単行本には本作ともう一篇「蜘蛛の声」が収められています。

 

この本を読んでみてください係数 75/100


土の中の子供 (新潮文庫)

 

◆中村 文則

1977年愛知県東海市生まれ。

福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。

作品 「銃」「遮光」「悪意の手記」「最後の命」「何もかも憂鬱な夜に」「世界の果て」「掏摸<スリ>」「悪と仮面のルール」「去年の冬、きみと別れ」他多数

関連記事

『ぼくは落ち着きがない』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『ぼくは落ち着きがない』長嶋 有 光文社文庫 2011年5月20日初版 ぼくは落ち着きがない

記事を読む

『悪と仮面のルール』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『悪と仮面のルール』中村 文則 講談社文庫 2013年10月16日第一刷 悪と仮面のルール (

記事を読む

『王国』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『王国』中村 文則 河出文庫 2015年4月20日初版 王国 (河出文庫 な) &nbs

記事を読む

『教団X』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『教団X』中村 文則 集英社文庫 2017年6月30日第一刷 教団X (集英社文庫) 突然自

記事を読む

『三の隣は五号室』(長嶋有)_あるアパートの一室のあるある物語

『三の隣は五号室』長嶋 有 中公文庫 2019年12月25日初版 三の隣は五号室 (中公文庫

記事を読む

『嗤う淑女』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女』中山 七里 実業之日本社文庫 2018年4月25日第6刷 嗤う淑女 (実業之日本

記事を読む

『テティスの逆鱗』(唯川恵)_書評という名の読書感想文

『テティスの逆鱗』唯川 恵 文春文庫 2014年2月10日第一刷 テティスの逆鱗 (文春文庫)

記事を読む

『翼』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『翼』白石 一文 鉄筆文庫 2014年7月31日初版   翼 (鉄筆文庫 し

記事を読む

『中国行きのスロウ・ボート』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『中国行きのスロウ・ボート』村上 春樹 文芸春秋 1983年5月20日初版 中国行きのスロウ・

記事を読む

『永い言い訳』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『永い言い訳』西川 美和 文芸春秋 2015年2月25日第一刷 永い言い訳  

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『逃亡刑事』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『逃亡刑事』中山 七里 PHP文芸文庫 2020年7月2日第1刷

『太陽の塔』(森見登美彦)_書評という名の読書感想文

『太陽の塔』森見 登美彦 新潮文庫 2018年6月5日27刷

『ここは、おしまいの地』(こだま)_書評という名の読書感想文

『ここは、おしまいの地』こだま 講談社文庫 2020年6月11日第1

『カウントダウン』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『カウントダウン』真梨 幸子 宝島社文庫 2020年6月18日第1刷

『悪の血』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『悪の血』草凪 優 祥伝社文庫 2020年4月20日初版 悪の

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑