『ドクター・デスの遺産』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ドクター・デスの遺産』中山 七里 角川文庫 2020年5月15日4版発行

ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 (角川文庫)

警視庁に入った1人の少年からの通報。突然自宅にやって来た見知らぬ医師に父親が注射を打たれ、直後に息を引き取ったという。捜査一課の犬養刑事は少年の母親が 「ドクター・デス」 を名乗る人物が開設するサイトにアクセスしていたことを突き止める。安らかで苦痛のない死を20万円で提供するという医師は、一体何者なのか。難航する捜査を嘲笑うかのように、日本各地で類似の事件が次々と発生する・・・・・・・。人気シリーズ第4弾! (角川文庫)

ドクター・デスの遺産は、難病を抱える娘を持つ捜査一課・犬養隼人刑事が、部下の高千穂明日香とともに、末期患者らの安楽死を二十万円で請け負うドクター・デスの逮捕劇を描いた中山七里氏の 刑事犬養隼人 シリーズ第四弾だ。その闇の人物とは誰なのか。悪魔、それとも聖人か。

犬養は、一人の刑事、そして一人の父親として、死を間近に控える患者の尊厳に立ちはだかり、葛藤する。それと同時に読者も、これまでとは異なる視点で安楽死を見つめ直すに違いない。
中山氏は、警察と安楽死依頼者たちの倫理的ギャップを緻密に映し出し、スリリングな見せ場とともに法を超えた人間の尊厳について、問題提起しているように見える。つまり、「生きる権利だけに目を向けがちな現代社会で、個人が望む死ぬ権利を法が支配できるのか、という問いかけのようでもある。(解説より/宮下洋一・ジャーナリスト)

「死ぬ権利」 という言葉で、父を思い出しました。父が亡くなったのは、長患いの末のことでした。

食事は流動食で鼻からになり、口もきけなくなっていました。一切の反応がなく、ただ眠っている (ように見える) だけの毎日でした。緊急入院して、二年四ヵ月になろうとしていました。それが私の父の最期の日々でした。

「鼻からの食事は痰が詰まりやすいので、そろそろ胃瘻に切り替えましょう」 と先生から言われました。「そんなんだ」 と思い、「はい」 と答えました。治る見込みはないにせよ、治療の順番からいうとそういうことなんだろうと自分を納得させました。

しかし、「親父は、本当はもう死にたいんだろうな」 心の中でそう呟いたのは、病室から先生が出て行ったあとのことです。

正体不明の犯人が特定されてからのクライマックスは、凄まじい。なぜ、その闇の人物が安楽死を繰り返すのか。その背景には、戦地で悶絶する重傷者たちの生死をコントロールしてきた過去に由来した。

国や状況によっては、安楽死を正義と見なしたり、殺人と見なしたりする。戦争という舞台を織り交ぜることで、日本における 「死ねない患者」 たちこそが、尊厳のない戦傷者たちに等しいことを、著者は揶揄しているのかもしれない。(解説の続き)

その頃、(私も妻も不勉強で) 延命治療について、どこまでが “普通” の範囲で、どこからが “延命” のための治療なのかが、よくは理解できていませんでした。病院の先生の言いなりに、とりあえずはそうするしかないと思っていました。

ただ呼吸をしているだけの父でしたが、先生に対し、「もう何もしなくていいです」 とはどうしても言えませんでした。父が亡くなったのは、発病してから四年三ヶ月後のことです。満76歳でした。

※この作品は、極上のエンターテインメントでありながら、その枠組みを凌駕して、我々読者に対し、生々しい、それ故易々とは答えの出ない究極の質問を投げかけています。

死ぬか、生きるか。それは誰が決めるのでしょう? 死にたいと思い、なお死に切れない場合、他人の手を借りて死のうとするのを、あなたは責めることができますか? それとも、見て見ぬふりをするのでしょうか・・・・・・・

この本を読んでみてください係数 85/100

ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人 (角川文庫)

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「悪徳の輪舞曲(ロンド)」「連続殺人鬼カエル男」他多数

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