『ネメシスの使者』(中山七里)_テミスの剣。ネメシスの使者

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『ネメシスの使者』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(な行)

『ネメシスの使者』中山 七里 文春文庫 2020年2月10日第1刷

物語は、猛暑日が続く八月の朝から幕が上がる。埼玉県警捜査一課で班長を務める警部 - 渡瀬は、部下の古手川とともに熊谷市佐谷田にある一軒家へと向かう。独り暮らしの六十五歳の女性 - 戸野原貴美子が何者かに刺し殺され、壁には死体の指先によって記されたと思しきネメシスの血文字が残されていたのだ。

ネメシスとはギリシャ神話に登場する女神の名前で、人間が働く無礼に対する神の怒りを擬人化したものだといわれる。そもそもは義憤を語源とするが、復讐と異訳されることもあって復讐の女神というイメージがある。

果たして被害者には、犯人がこのような復讐に走るほど強く怨まれる理由があったのか。すると第一発見者である隣家の住人の話から、被害者が十年前に世間を騒がせた通り魔殺人の犯人 - 軽部亮一の母親であることが判明する。

当時二十六歳の軽部は、浦和駅の改札口近くで十九歳の女子大生と十二歳の少女を隠し持っていた出刃包丁で殺害。大学中退後に引きこもりとなってネットにはまり、県の教育委員会にも名を連ねる著名な教育評論家である父親以上に自らも名を上げるには - と考え、凶行に及んだのだった。

身勝手な動機、無抵抗な相手を狙った卑劣な犯行、「殺すのは誰でもよかった」 と口にする臆面のなさ、そして父親がワイドショーで重宝されてきたタレントのごとき教育者という境遇は、世間の轟轟たる非難を巻き起こし、裁判で検察側は死刑を求刑。

ところが裁判長を務めた渋沢英一郎判事は意外にも無期懲役の判断を下す。じつはこの渋沢、過去にも死刑か無期懲役かを問われる局面でことごとく死刑を回避しており、皮肉を込めて温情判事と綽名される人物だった。

当然、娘を奪われた両家族は判決を不服とし、判事への不信感をマスコミに表明。被害者遺族にとってあまりにも無念極まりないこの裁きは、遺族たちを復讐の鬼に変えることはもちろん、司法に不満を覚える人間を義憤に駆り立て、犯人が正しく罰せられないなら加害者家族に天誅を下そうと考える ネメシスの使者を生み出してもおかしくはない。

そして今回の ネメシス事件は、浦和駅通り魔事件の裁判で担当検事になって初めての敗北を覚えた岬恭平次席検事にも早期解決を図るよう命が下り、渡瀬と協力することになるのだが、さらに第二の犠牲者が。これは被害者遺族が蔑ろにされる偏向した司法システムに対するテロなのだろうか・・・・・・・。

死刑判決を免れた殺人犯たちの家族が、次々に殺される。殺人現場にあった 「ネメシス」 の血文字。ギリシャ神話の “義憤の女神” を意味する 「ネメシス」 の正体とは?  愉快犯か、それとも・・・・・・・

騙されてはいけません。最後の最後まで、これで “終わり” だと思わないでください。

その瞬間、法の力を超越するほどの人間の底知れぬ怒りとはどのようなものかを、読者は胸に刻みつけられることだろう。しかも、驚きは一撃だけで済むとは限らない。もっとも重い罰が死刑であり、無期懲役刑はそれよりも軽い - といった誰もが抱きがちな浅はかな先入観は木端微塵に紛糾される。(太字は全て解説からの抜粋)

この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。

作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「悪徳の輪舞曲(ロンド)」「連続殺人鬼カエル男」他多数

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