『七色の毒』(中山七里)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2016/09/25
『七色の毒』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(な行)
『七色の毒』中山 七里 角川文庫 2015年1月25日初版
岐阜県出身の作家で、ペンネームが「中山七里」とは中々にふざけた名前で面白い。知らなかったのは私だけのようで、世間ではえらく人気があるらしい。特に『切り裂きジャックの告白』という小説が評判で、テレビのドラマ化が決定したと書いてあります。
『七色の毒』は、『切り裂きジャックの告白』に続くシリーズの第2弾。警察の採用試験を受ける寸前まで俳優養成所に通っていたという珍しい経歴の持ち主で、嫌味のない男ぶりの良さで名をはせる〈犬養隼人〉という刑事が活躍する警察小説です。
但し、『切り裂きジャックの告白』が本格的な社会派ミステリーの長編であるのに対して、『七色の毒』は色にまつわる7つの事件に犬養刑事が挑む短編集で、最初の「赤い水」とこの本のために書き下ろされた最後の「紫の献花」だけは話が繋がっています。
中山七里をして「どんでん返しの帝王」と呼ぶらしく、『七色の毒』でも様々に趣向を凝らしたトリックが準備されています。あらかじめ予期せぬ結末ですよと教えてくれているにもかかわらず、読んでみると、確かに一々の意外性に驚かされることになります。
聞くところによると、著者はこの「原稿用紙50枚くらいの短編でどれくらいのどんでん返しができるか」挑戦しているらしい。そしてその結果、自ら「間違いなく、私の最高傑作です」と自負する作品に仕上がったと言っているようなのですが、では読んだ感想はと言うと、
さっくり読めて、切れ味が良いので読後感も良好。敢えて誤解を生むような言い方をしますが、〈暇つぶし〉には最適の読み物です。軽からず、重からず。きっちり時事問題が絡んで、勉強にもなります。
読んだことがないのに言うのも何ですが、『切り裂きジャックの告白』がドラマになるのが分かります。『七色の毒』に収められた短編にしても、それぞれがテレビの90分ドラマの原作になるような出来栄えです。もしかすると、もうなってるかも知れません。
この手の本は内容を書き過ぎると台無しになりますので敢えて触れませんが、私が気に入ったのは第二話の「黒いハト」という話。それと、第一話の事件の元凶であり、タイトルにもなっている〈赤い水〉。赤い色を強く印象付けるフレーズが記憶に残って消えません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。
作品 「さよならドビュッシー」「贖罪の奏鳴曲」「切り裂きジャックの告白」他
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