『線の波紋』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2017/12/14
『線の波紋』(長岡弘樹), 作家別(な行), 書評(さ行), 長岡弘樹
『線の波紋』長岡 弘樹 小学館文庫 2012年11月11日初版
思うに、長岡弘樹という人は元来穏やかで謙虚な人、そんな感じがします。文庫の写真を見てもそうで、あくがなく誰もに善意で接するような人の好さを感じます。小説にそれが表れているようでなりません。悍ましい犯罪を扱っている割にはどこか空気が優しげで、人の悪意に対してさえも心遣いがあるように思えます。但し、それが良いと言う人もいれば、少しヤワで物足りないと感じる読者もいるはずです。
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高い評価を受けた短編小説『傍聞き』に続いて刊行された『線の波紋』は、一話読み切りの連作長編小説です。4編の主人公はそれぞれ別人で内容も異なるのですが、最終的にはすべてが繋がって完結する「長編小説」です。
一つの事件が起こした波紋がもう一つの事件を生み、更に別の事件へと繋がって行きます。波は事件の当事者だけに留まらず、周囲の人間まで巻き込んで翻弄して行きます。
娘の誘拐事件に巻き込まれて疑心暗鬼になる夫婦、友人でもある同僚が殺害されたことで職場を失ってしまう会社員、好意を抱く男性の周辺を捜査しなければならない女刑事、肝心の事件と関係があるのか無いのか曖昧ななかで、周辺も小さな波で揺れ動きます。
一見関連がなく思える個別の事案が、実は一本の線ですべて繋がっていました。事件の全容が明らかになるに従って、背後に潜む当事者たちの思惑も暴かれて行きます。卑劣な犯罪の陰に、誰かが誰かを必死で守ろうとした背景があったことを知るのです。
「談合」
一人娘の真由が誘拐されて1ヶ月、安否は不明のまま、白石千賀は役場の仕事に復帰します。溜池工事の請負業者決定を間近に控えていました。警察を騙ってかかってくるいたずら電話に千賀は悩まされます。真由が「冷たくなって発見されました」という台詞を繰り返すばかりの電話です。
また、夫・哲也の見舞いに病院を訪れた千賀は、同じく哲也を見舞いに来た小塚の電話を盗み聞いて衝撃を受けます。小塚は哲也の友人であり、入札業者の一人でもありました。
「追悼」
誘拐事件から2か月後、同じ町内に住む24歳の会社員・鈴木航介が児童公園で他殺死体となって発見されます。同僚の久保和弘はその1週間前、経理部員の航介から不正を指摘されていました。和弘は、上司に指示されて伝票を改竄していたのでした。
悔やみに訪れた和弘は、航介が使っていた携帯に追悼メールが届いていると聞いて、黙って内容を覗いてしまいます。そこには、予期せぬ人物からのメールが届いていました。
「波紋」
渡亜矢子は、真由ちゃんの誘拐事件を追う刑事です。地道な捜査を続けるうちに、ようやく犯人らしき人物が特定でき、遂に逮捕に至ります。犯人は、亜矢子が以前から顔見知りの人物でした。そしてその犯人のごく近くに、密かに亜矢子が好意を寄せる男性がいました。
最終話となる「再現」と後に続く短い「エピローグ」の内容は割愛。本編にて確認ください。
この本を読んでみてください係数 75/100
◆長岡 弘樹
1969年山形県山形市生まれ。
筑波大学第一学群社会学類卒業。
作品 「陽だまりの偽り」「傍聞き」「教場」「波形の声」「群青のタンデム」など
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