『祝言島』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/07
『祝言島』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(さ行), 真梨幸子
『祝言島』真梨 幸子 小学館文庫 2021年5月12日初版第1刷
2006年に起きた 「十二月一日連続殺人事件」。死亡した三人の知人・七鬼紅玉は警察の取り調べ中に姿を消し、以来事件は未解決のままだ。彼らの共通点がもうひとつある。それが 「祝言島」 だった。
2017年、映像制作会社でアルバイトを始めた九重皐月は 「祝言島」 に関わる人々の再現ドラマを手にする。都市伝説とも言われる島の、忌まわしく不穏な日々がそこには収められていた。「祝言島」 開拓に端を発する、3世代にわたる数奇な事件。連続殺人の真犯人と驚くべき動機とは。張り巡らされた伏線にラストまで目が離せない。二度読み必至の超絶技巧ミステリー! (小学館文庫)
「緻密に張り巡らされた因縁と伏線」 「驚愕のラスト、あなたは必ずプロローグに戻る。」 とあります。それはその通りに違いありません。ただ、敢えて難を言うと、緻密に過ぎて人の関係がやたらややこしく、行きつ戻りつしながら読み進めなければなりません。
何かしら謎を含んだ人物が複数人登場し、話が長くなると、それはある程度仕方ないことではありますが、思いのほかストレスになり、いかばかりか話に集中しづらくなるという点は否めません。ですから、特に前半は粘り強く読んでください。
発端は、あるTV番組でした。『テレビ人生劇場 ~殺人者は隣にいる~』 という番組で、「未解決事件スペシャル」 の一企画として 「祝言島」 が登場したことでした。
事の全容は、こうです。
2006年11月30日深夜から12月1日夜にかけて、ある事件が連続して起きました。
世に 「12月1日連続殺人事件」 と言われる事件です。まず殺害されたのは、一ノ瀬マサカズ。一部では演劇界のカリスマと呼ばれていました。12月1日の未明、西新宿セントラルパークホテル1905号室で、惨殺死体で見つかりました。殺害されたのは11月30日23時30分頃。享年33。
とき同じくして、七鬼百合 (なおき・リリィ) が港区の自宅アパートで何者かに襲われ、搬送先の病院で死亡します。享年55。
そして3人目の被害者は、国崎珠里 (くにさき・じゅり)。12月1日の夜、赤坂の自宅マンションで、惨殺死体で見つかりました。享年33。11月30日深夜から12月1日の夜。たった1日の間に起きた3件の殺人事件。大都会東京とはいえ、これほど殺人が連続することはありません。そこで警察は、この3つの事件に関連があるのではないかと疑い、まずはこの3人の共通点を探りました。
3人の共通点は、すぐに浮かび上がりました。
それは、「ルビィ」 という名の女優です。
ルビィ・・・・・・・本名は七鬼紅玉 (なおき・ルビィ)。
最初の被害者である一ノ瀬マサカズとその晩一夜を共にし、2番目の被害者である七鬼百合とは親子関係、そして3番目の被害者である国崎珠里とは、・・・・・・・切っても切れない腐れ縁の仲。
が、そのルビィは、警察の取り調べの最中、忽然と姿を消します。
そして、事件は迷宮入り。未解決事件のリストに刻まれることになります。どうして、事件は未解決のままなのか?
それは、被害者3人の共通点にあります。3人の共通点は 「ルビィ」 だけではなかったのです。共通点は他にもあったのです。
それが、「祝言島」 です。
※祝言島:小笠原諸島の南端にあったとされる島にまつわる都市伝説。昭和39年、東京オリンピックが開催される年に島の火山が噴火したとされているが、そんな記録は残されておらず、そもそも、「祝言島」 という島も存在しない。ところが、ある事が発端で、一部では、島が実在するかのように語られている。真偽のほどはわからない。因みに、「シュウゲンジマ」 は、俗称。正式には 「ホカイシマ」。「祝言」 と書いて、「ホカイ」 と読む。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。
作品 「孤虫症」「えんじ色心中」「殺人鬼フジコの衝動」「深く深く、砂に埋めて」「女ともだち」「あの女」「みんな邪魔」「人生相談」「お引っ越し」他多数
関連記事
-
『蟻の棲み家』(望月諒子)_書評という名の読書感想文
『蟻の棲み家』望月 諒子 新潮文庫 2021年11月1日発行 誰にも愛されない女が
-
『太陽の塔』(森見登美彦)_書評という名の読書感想文
『太陽の塔』森見 登美彦 新潮文庫 2018年6月5日27刷 私の大学生活には華が
-
『すみなれたからだで』(窪美澄)_書評という名の読書感想文
『すみなれたからだで』窪 美澄 河出文庫 2020年7月20日初版 無様に。だけど
-
『物語のおわり』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文
『物語のおわり』湊 かなえ 朝日文庫 2018年1月30日第一刷 妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、父親
-
『残穢』(小野不由美)_書評という名の読書感想文
『残穢』小野 不由美 新潮文庫 2015年8月1日発行 この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの
-
『前世は兎』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文
『前世は兎』吉村 萬壱 集英社 2018年10月30日第一刷 7年余りを雌兎として
-
『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文
『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』滝口 悠生 新潮文庫 2018年4月1日発行 東北へのバ
-
『さいはての彼女』(原田マハ)_書評という名の読書感想文
『さいはての彼女』原田 マハ 角川文庫 2013年1月25日初版 25歳で起業した敏腕若手女性
-
『ある女の証明』(まさきとしか)_まさきとしかのこれが読みたかった!
『ある女の証明』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年10月10日初版 主婦の小浜
-
『獅子渡り鼻』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文
『獅子渡り鼻』小野 正嗣 講談社文庫 2015年7月15日第一刷 小さな入り江と低い山並みに挟