『正しい女たち』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『正しい女たち』千早 茜 文春文庫 2021年5月10日第1刷

正しい女たち (文春文庫 ち 8-4)

どんなに揉めても、嫌だなと感じても、誰かと生きていく人生を一番に考えて行動した。していたつもりだった。それが人として正しい姿だと思っていたから。けれど、正しい状態ではない今、わたしの心は穏やかだ。(「幸福な離婚」)

不倫に悩む親友にわたしがしたこと (「温室の友情」)、同じマンションに住む女に惹きつけられる男 (「偽物のセックス」)、残り少ない日を過ごす夫婦の姿 (「幸福な離婚」)- 。偏見や差別、セックス、結婚、プライド、老いなど、口にせずとも誰もが気になる最大の関心事を、正しさをモチーフに鮮やかに描く短編集。解説・桐野夏生 (文春文庫)

これでこそ千早茜と思う一冊。女同士の、男と女の、リアルな本音がズバズバ書いてあります。鮮やかに。気持ちいいほど、辛辣に。同じ思いでいたとしても、こうは書けません。

目次
1.温室の友情
2.海辺の先生
3.偽物のセックス
4.幸福な離婚
5.桃のプライド
6.描かれた若さ

「最初、わたしたちは四人だった。
わたしと環と麻美と恵奈の四人。わたしたちは太っても痩せてもなく、目立って愚図でも飛びぬけて優秀でもない普通の女の子で、大学までエスカレーター式の私立の中等部で出会った」

本書に収められた最初の短編 「温室の友情」 の出だしである。何という秀逸な始まりだろうか。女子中高生ならば、「痩せて」 いるだけで、友人からの羨望や嫉妬の声を聞くことがあるだろうから、大きな自己肯定感を得られるかもしれない。が、もし 「太って」 いたならば、その子の自意識は、痩せたい願望やコンプレックスによって、より複雑になるはずである。「愚図」 であっても、「飛びぬけて優秀」 な生徒だとしても、孤独のイメージがつきまとい、なかなかグループには入れないだろう。

主人公たちは、そのどれでもないが故に、「普通」 であり、皆が揃って 「普通」 であることによって仲がよい。それは、同質の 「塊」 の中にいることの幸福であろう。同質であればあるほど、「塊」 の中は居心地がよくなるのだから。

成長するに従って、この 「塊」 は解けてばらばらになる。その 「塊」 に留まりたいと願う者と、逸脱してゆく者とが感じる、それぞれの違和。その微妙な心の動きを、作者はうまく描いている。(桐野夏生/解説より)

「正しい」 と思うことを 「正しい」 と主張するのは、とても難しい。時に変人扱いされ、時に煙たがられたりもします。孤立するのが嫌で、大抵の場合、人は黙ったまま何も言いません。その方が無難で安全だからです。

ただ、何も言わないからといって、その “話題” に興味がないわけではありません。むしろ興味がありすぎて、それを気付かれはしないかと気が気ではありません。自分が 「普通」 かどうかもわからずに、仕方がないので、ひたすらだんまりを通します。素知らぬふりで、まるで他人事みたいに。

日常には、空洞になっているものがある。
頭の片隅では意識しているのに、はっきりとは言葉にしないもの。偏見や差別、女性の年齢や容姿、経済状況、家庭の事情、セックス。安易に触れてしまうとヤバいもの。ヤバいけれど、ヤバいだけあって、みんな本当は興味津々。

女性社員たちはトイレで噂話に花を咲かせ、同期の男性社員たちは新入の女性社員の品定めをする。公けにしてはいけないものを共有して仲間意識を高める。ヤバいものは遠巻きに眺めている分には愉しい。(「偽物のセックス」)

※人は 「正しい」 と 「普通」 に、日々どう向き合って生きているのでしょう。そんなことを考えました。あなたはどうですか。「正しく」 生きていますか? あなたは、「普通」 ですか?

この本を読んでみてください係数  85/100

正しい女たち (文春文庫 ち 8-4)

◆千早 茜
1979年北海道江別市生まれ。
立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業。

作品 「魚神(いおがみ)」「おとぎのかけら/新釈西洋童話集」「からまる」「森の家」「桜の首飾り」「あとかた」「眠りの庭」「男ともだち」「夜に啼く鳥は」他

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