『展望塔のラプンツェル』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/06
『展望塔のラプンツェル』(宇佐美まこと), 作家別(あ行), 宇佐美まこと, 書評(た行)
『展望塔のラプンツェル』宇佐美 まこと 光文社文庫 2022年11月20日初版第1刷
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/01/81B9GrVbENL._AC_UL320_-1.jpg)
貧困と暴力と不条理がはびこる街で子供たちは・・・・・・・
きっとラプンツェルが助けてくれる。だから生きることをあきらめない。驚愕のラストで話題沸騰の問題作がついに文庫化!
労働者相手の娯楽の街・多摩川市。この地の児童相談所に勤務する松本悠一は、市の 「こども家庭支援センター」 の前園志穂と連携して、問題のある家庭を訪問している。一方、フィリピン人の母親を持つ海は、崩壊した家庭から逃げ出してきた那希沙とともに、倉庫街で座り込んでいた幼児を拾い、面倒をみることにするが。荒んだ街の子どもたちに救いはあるのか? (光文社文庫)
この作品には 「三つのストーリー」 があります。はじめバラバラに思われた三つは、徐々に重なり、やがて結末らしき場面を迎えます。
但し、三つ全てが上手く行くわけではありません。世は変われど、相も変わらず貧困や暴力や不条理は存在し、非力を嘆き、己の運命に涙する人たちがいます。命を落とし、叶わぬ夢に翻弄される夫婦がいます。皆が皆、救われるわけではありません。
「こども家庭支援センター」 の前園志穂は、児童相談所の松本悠一とともに問題のある家庭への対応にあたっている。最近の彼女の気がかりは、親からの虐待が疑われ、五歳児なのに家の外を徘徊することが多いらしい石井壮太だ。
兄と彼の仲間から性的虐待を受けてきた那希沙は、フィリピン人の母を持つ海とともに、街をふらついていた幼児と出会う。自分たちもまだ大人になっていない那希沙と海は、話すことをしないその子を 「晴」 と名づけ、面倒をみるようになる。
不妊治療を続ける落合郁美は、夫の圭吾がそのことに自分のように熱心ではないことを感じとっていた。彼女は、自分たちの住むマンションの向かいの家で小さい子が虐待されていることに気づき、ベランダから見張るようになる。(解説より)
この三つの話が並行して進行し、それぞれが、それぞれに抜き差しならない場面を迎えます。それは絶望的なまでの、生まれてきた運命を呪わざるを得ないほどの、報われない、変えることの出来ない悲惨なものでした。
志穂はその状況を、あらんかぎりに憤慨します。ところが悠一はというと、これが案外冷静で、(志穂からすると) はじめやる気があるのかないのかよくわかりません。二人の間には、問題を解決しようとする姿勢や対処の方法に、時に微妙な差が生じています。
※気を抜かず読んでください。最後に、あっと驚くことになります。
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◆宇佐美 まこと
1957年愛媛県松山市生まれ。
松山商科大学人文学部卒業。
作品 「るんびにの子供」「愚者の毒」「入らずの森」「熟れた月」「死はすぐそこの影の中」「角の生えた帽子」「ボニン浄土」他多数
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