『さまよえる脳髄』(逢坂剛)_あなたは脳梁断裂という言葉をご存じだろうか。

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『さまよえる脳髄』(逢坂剛), 作家別(あ行), 書評(さ行), 逢坂剛

『さまよえる脳髄』逢坂 剛 集英社文庫 2019年11月6日第5刷

なんということでしょう。30年があっという間に過ぎました。この作品は、1988年10月に 〈新潮ミステリー倶楽部〉 の一冊として単行本が発行。1992年に文庫化 (新潮文庫)。その後、2003年に集英社文庫より新装されたものの第5刷ということになります。

単行本発行当初、表紙 (の裏) に載った惹句はこうです。

暴走する神経回路のパスワードを捜せ! ふとしたきっかけで豹変する病んだ脳髄たち。女性精神科医・南川藍子に忍び寄る影のなかに、まさかのあいつが・・・・・。精神病理学、大脳生理学の可能性を極限まで追求、脂の乗り切った逢坂サスペンスの最高峰! 

「おもしろそうだが、読むとずいぶん古くさいのではないか」 とお思いのあなた。文庫の解説に、こんな一節があります。

本書は、発表から十五年(2003年時点) が経っている。寡聞にして詳しく指摘することはできないが、作中に登場する心理学や大脳生理学の情報も、加速度的に進む医学研究の成果から見ると、既に古くなっている可能性も否定できない。それなのに作品を読むと、とても十五年も前に書かれた作品とは思えないほどにフレッシュなのだ。それは作中に横溢する脳と心理に関する情報を、単に興味深い話題として提示するのではなく、すべてミステリーのトリックと結びつけているからにほかならない。

つまりは、この小説は - 精神科医が、主に深層心理の分析によって、猟奇的な犯罪を繰り返す殺人犯に近づいていく - というサイコ・サスペンスの先駆的作品であると同時に、今もなお読者を魅了して止まない稀有な作品であるということです。

この手の本が何より好物だというあなたには、是非にも読んで欲しい一冊です。読めば、なぜこの小説が今更に新装され、尚且つ売れているかがきっとわかるはずです。嘘だと思って読んでみてください。必ずや満足して頂けるはずです。

精神科医・南川藍子の前にあらわれた三人の男たちは、それぞれが脳に 「傷」 を持っていた。試合中、突然マスコットガールに襲いかかり、殺人未遂で起訴されたプロ野球選手。制服姿の女性ばかりを次々に惨殺していく連続殺人犯。そして、事件捜査時の負傷がもとで、大脳に障害を負った刑事。やがて、藍子のもとに黒い影が迫り始める - 。人間の脳にひそむ闇を大胆に抉り出す、傑作長編ミステリ。(集英社文庫)

この本を読んでみてください係数 85/100

◆逢坂 剛
1943年東京都文京区生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。

作品 「カディスの赤い星」「屠殺者よグラナダに死ね」「百舌シリーズ」「岡坂伸策シリーズ」「御茶ノ水警察署シリーズ」「イベリアシリーズ」「禿鷹シリーズ」他多数

関連記事

『獅子渡り鼻』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『獅子渡り鼻』小野 正嗣 講談社文庫 2015年7月15日第一刷 小さな入り江と低い山並みに挟

記事を読む

『それを愛とまちがえるから』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『それを愛とまちがえるから』井上 荒野 中公文庫 2016年3月25日初版 ある朝、伽耶は匡にこう

記事を読む

『マタタビ潔子の猫魂』(朱野帰子)_派遣OL28歳の怒りが爆発するとき

『マタタビ潔子の猫魂』朱野 帰子 角川文庫 2019年12月25日初版 地味で無口

記事を読む

『4TEEN/フォーティーン』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『4TEEN/フォーティーン』石田 衣良 新潮文庫 2005年12月1日発行 東京湾に浮かぶ月島。

記事を読む

『デルタの悲劇/追悼・浦賀和宏』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『デルタの悲劇/追悼・浦賀和宏』浦賀 和宏 角川文庫 2020年7月5日再版 ひと

記事を読む

『十九歳の地図』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『十九歳の地図』中上 健次 河出文庫 2020年1月30日新装新版2刷 「俺は何者

記事を読む

『竜血の山』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『竜血の山』岩井 圭也 中央公論社 2022年1月25日初版発行 北の鉱山に刻まれ

記事を読む

『さよなら渓谷』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『さよなら渓谷』 吉田 修一 新潮社 2008年6月20日発行 この作品は昨年の6月に映画化され

記事を読む

『るんびにの子供』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『るんびにの子供』宇佐美 まこと 角川ホラー文庫 2020年8月25日初版 近づく

記事を読む

『センセイの鞄』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『センセイの鞄』川上 弘美 平凡社 2001年6月25日初版第一刷 ひとり通いの居酒屋で37歳

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『天使のにもつ』(いとうみく)_書評という名の読書感想文

『天使のにもつ』いとう みく 双葉文庫 2025年3月15日 第1刷

『救われてんじゃねえよ』(上村裕香)_書評という名の読書感想文

『救われてんじゃねえよ』上村 裕香 新潮社 2025年4月15日 発

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑