『後悔病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『後悔病棟』(垣谷美雨), 作家別(か行), 垣谷美雨, 書評(か行)
『後悔病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2017年4月11日初版
33歳の医師・早坂ルミ子は末期のがん患者を診ているが、「患者の気持ちがわからない女医」というレッテルを貼られ、悩んでいる。ある日、ルミ子は病院の中庭で不思議な聴診器を拾う。その聴診器を胸に当てると、患者の心の “後悔” が聞こえてくるのだ。「過去に戻って、もう一度、人生をやり直したい」- 聴診器の力を借りて、”もうひとつの人生” の扉を開けた患者たちが見たものは - !?
この世の中の誰もが、「長生き」することを前提に生きている。もしも、この歳で死ぬことを知っていたら・・・・・・・ 夢、家族、結婚、友情。女性から圧倒的な支持を受ける著者が描くヒューマンドラマ!! (小学館)
“あの日” に戻れる「聴診器」をめぐる4つの物語
第1章 dream :大女優の母を持ち、自らも女優になりたかったのに、母の強い反対にあい、その夢が叶わなかったルミ子と同い年の患者・千木良小都子(33歳)の物語。
第2章 family :俺はもうすぐ死ぬというのに、なぜ妻は金の話ばかりするのか - 仕事優先で、子育ては妻に任せっきりでやってきた、IT関連会社に勤務する日向慶一(37歳)の物語。
第3章 marriage :娘の幸せを奪ったのは私だ。かつて、結婚に反対したことから、娘が未婚のまま四十代半ばを迎えてしまったことを悔やんでいる雪村千登勢(76歳)の物語。
第4章 friend :中三の時の、爽子をめぐる、あの “事件” - 俺が罪をかぶるべきだったのにと、自分の行動に未だ負い目を感じている大手建材メーカー勤務・八重樫光司(45歳)の物語。
そして、エピローグ。(ここは敢えて書かないでおきます )
医師のルミ子は、中庭で拾った不思議な聴診器を通じて、彼らの、あり得たかもしれないもうひとつの人生と、その顛末を知ることになります。
ここでポイントになるのは、彼らがみな、末期のガン患者であることだ。そう遠くないうちに、彼らは生を終える。だからこそ、揺れる。もし、この歳で死ぬことが分かっていたら、今とは違う生き方を選んでいた、と。(中略)
諦めた夢、後回しにして来た子育て、良かれと思って諦めさせた結婚、そして友人の無実を言い出せなかったことへの後ろめたさ。死を控え、彼らの心にあるのは、こんなはずでは、という想いだ。彼らの “今” のままならなさ(病だけでなく、それぞれに抱えている心残り)が、彼らに、もしもあの時あぁしていれば、こうしていれば、という夢を見させる。ルミ子(の聴診器)は、そのサポート役、である。(P386 解説より)
今まさに人生を終えようとする患者たち。彼らは、「自らの人生をやり直す」ことで何を思い、如何なる心境に至るのでしょう。はらはらと、選ぶべきは別の人生だったと嘆くのでしょうか。それとも・・・・・・・
この本を読んでみてください係数 85/100
◆垣谷 美雨
1959年兵庫県豊岡市生まれ。明治大学文学部文学科(フランス文学専攻)卒業。
作品 「竜巻ガール」「リセット」「老後の資金がありません」「あなたの人生、片づけます」「夫のカノジョ」「子育てはもう卒業します」他多数
関連記事
-
-
『君の膵臓をたべたい』(住野よる)_書評という名の読書感想文
『君の膵臓をたべたい』住野 よる 双葉社 2015年6月21日第一刷 君の膵臓をたべたい
-
-
『工場』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文
『工場』小山田 浩子 新潮文庫 2018年9月1日発行 工場 (新潮文庫) (帯に) 芥
-
-
『鵜頭川村事件』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文
『鵜頭川村事件』櫛木 理宇 文春文庫 2020年11月10日第1刷 鵜頭川村事件 (文春文庫
-
-
『螻蛄(けら)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『螻蛄(けら)』黒川 博行 新潮社 2009年7月25日発行 螻蛄 (角川文庫) &nb
-
-
『国境』(黒川博行)_書評という名の読書感想文(その1)
『国境』(その1)黒川 博行 講談社 2001年10月30日第一刷 国境 上 (文春文庫)
-
-
『夜の公園』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『夜の公園』川上 弘美 中公文庫 2017年4月30日再版発行 夜の公園 (中公文庫)
-
-
『白い衝動』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文
『白い衝動』呉 勝浩 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 白い衝動 (講談社文庫)
-
-
『カエルの楽園 2020』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文
『カエルの楽園 2020』百田 尚樹 新潮文庫 2020年6月10日発行 カエルの楽園202
-
-
『玉蘭』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『玉蘭』桐野 夏生 朝日文庫 2004年2月28日第一刷 玉蘭 (文春文庫)  
-
-
『綺譚集』(津原泰水)_読むと、嫌でも忘れられなくなります。
『綺譚集』津原 泰水 創元推理文庫 2019年12月13日 4版 綺譚集 (創元推理文庫)