『木になった亜沙』(今村夏子)_圧倒的な疎外感を知れ。

公開日: : 最終更新日:2024/01/08 『木になった亜沙』(今村夏子), 今村夏子, 作家別(あ行), 書評(か行)

『木になった亜沙』今村 夏子 文藝春秋 2020年4月5日第1刷

誰かに食べさせたい。願いが叶って杉の木に転生した亜沙は、わりばしになって若者と出会う (「木になった亜沙」)。どんぐりも、ドッジボールも、なぜだか七未には当たらない。「ナナちゃんがんばれ、あたればおわる」 と、みなは応援してくれるのだが (「的になった七未」)。夜の商店街で出会った男が連れていってくれたのは、お母さんの家だった。でも、どうやら 「本当のお母さん」 ではないようで・・・・・(「ある夜の思い出」)。『むらさきのスカートの女』 で芥川賞を受賞した気鋭の作家による、奇妙で不穏で純粋な三つの物語。(文藝春秋)

生まれ変わったら甘い実をつけた木になりたい - そんなふうに亜沙が願うのは、自分が差し出す全てのものが、決して人には食べてはもらえないからだ。手作りお菓子も給食当番でも、誰も亜沙の手からは受け取らない。受け取ってはもらえない。

ナナちゃんがんばれ、あたればおわる - 七未は体にものがあたらない。ドッジボールをやっても、彼女はいつも最後に残ってしまう。絶対にボールにあたらない。あててもらえば全てが終わる。やがて七未は、そう考えるようになる。

お母さんはあなたの本当のお母さんじゃないの? - 這いずるように移動しながら家を飛び出した真由美は、夜の商店街である男に出会う。男は真由美と同じように腹這いで歩き、結婚相手を探していたのだという。男が連れていったのはお母さんの家だった。

身の毛がよだつ孤立感。想像してください。いっさい他者と関われない地獄と絶望感を。そこに身を置く、ひとりの少女を。

なってみなければ、こんな話は生まれません。思いつきもしない。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆今村 夏子
1980年広島県広島市生まれ。

作品 「こちらあみ子」「あひる」「星の子」「父と私の桜尾通り商店街」「むらさきのスカートの女」等

関連記事

『八月の路上に捨てる』(伊藤たかみ)_書評という名の読書感想文

『八月の路上に捨てる』伊藤 たかみ 文芸春秋 2006年8月30日第一刷 第135回 芥川賞

記事を読む

『月魚』(三浦しをん)_書評という名の読書感想文

『月魚』三浦 しをん 角川文庫 2004年5月25日初版 古書店 『無窮堂』 の若き当主、真志喜と

記事を読む

『殺戮にいたる病』(我孫子武丸)_書評という名の読書感想文

『殺戮にいたる病』我孫子 武丸 講談社文庫 2013年10月13日第一刷 東京の繁華街で次々と猟奇

記事を読む

『君の膵臓をたべたい』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『君の膵臓をたべたい』住野 よる 双葉社 2015年6月21日第一刷 主人公である「僕」が病院で

記事を読む

『陰日向に咲く』(劇団ひとり)_書評という名の読書感想文

『陰日向に咲く』劇団ひとり 幻冬舎文庫 2008年8月10日初版発行 この本が出版されたのは、も

記事を読む

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人)_書評という名の読書感想文

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳 碧人 双葉社 2019年6月3日第5刷

記事を読む

『錠剤F』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『錠剤F』井上 荒野 集英社 2024年1月15日 第1刷発行 ひとは、「独り」 から逃れら

記事を読む

『スペードの3』(朝井リョウ)_書評という名の読書感想文

『スペードの3』朝井 リョウ 講談社文庫 2017年4月14日第一刷 有名劇団のかつてのスター〈つ

記事を読む

『4TEEN/フォーティーン』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『4TEEN/フォーティーン』石田 衣良 新潮文庫 2005年12月1日発行 東京湾に浮かぶ月島。

記事を読む

『孤虫症』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『孤虫症』真梨 幸子 講談社文庫 2008年10月15日第一刷 真梨幸子のデビュー作。このデビュ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アイドルだった君へ』(小林早代子)_書評という名の読書感想文

『アイドルだった君へ』小林 早代子 新潮文庫 2025年3月1日 発

『現代生活独習ノート』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『現代生活独習ノート』津村 記久子 講談社文庫 2025年5月15日

『受け手のいない祈り』(朝比奈秋)_書評という名の読書感想文

『受け手のいない祈り』朝比奈 秋 新潮社 2025年3月25日 発行

『蛇行する月 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『蛇行する月 』桜木 紫乃 双葉文庫 2025年1月27日 第7刷発

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』(福田ますみ)_書評という名の読書感想文

『でっちあげ/福岡 「殺人教師」 事件の真相 』福田 ますみ 新潮文

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑