『永遠についての証明』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『永遠についての証明』岩井 圭也 角川文庫 2022年1月25日初版

永遠についての証明 (角川文庫)

圧倒的 「数覚」 に恵まれた三ツ矢瞭司、同じく特別推薦生として数学科に入学した熊沢、佐那の3人は、共同研究で画期的な成果を上げる。瞭司が初めて数学の美しさを他者と共有できた瞬間だった。しかし瞭司の才能は、築いた関係性を破壊していく - 瞭司の死から6年、熊沢は遺されたノートに、未解決問題の証明らしき記述を発見する。冲方丁、辻村深月、森見登美彦ら選考委員絶賛、第9回野性時代フロンティア文学賞受賞作。(角川文庫)

一晩で一気に読み終えました。眠気が吹っ飛び、ゾーンに入る - 読書の一番の醍醐味を味わいました。未解決で超難解な数学上の問題と、その問題に関らざるを得なかった人々の人生の明暗に、これほど感動するとは思いもしませんでした。

「数学が面白い」 などとは、金輪際思ったことがありません。そんな私が、何故、この小説をのめり込むようにして読んだのか。読めたのか? - その答えが、(森見登美彦氏の手になる) 解説の冒頭に書いてあります。

『永遠についての証明』 は岩井圭也氏のデビュー作である。
私は野性時代フロンティア文学賞 (現在 「小説 野性時代 新人賞」 に改称) の選考委員として、最終候補に残った応募原稿を読んだのだが、そのとき心に残ったのが次の一節だった。

「自然界でも同じようなことが起こってるかもしれないんだよ。雲を表す式を応用すれば、波になるかもしれない。雪を表す式を変形すれば、森になるかもしれない。ひとつの基本式からすべてが導かれるかもしれない。ああ、なんで今まで気づかなかったんだろう」

数学することの喜びというか、興奮というか、そういうものをたいへん美しく表現した言葉で、思わずノートに抜き書きしたことをおぼえている。

もちろん私には本当の数学者の気持ちは分からないが、きっとこんな感じにちがいない と思わせる説得力が本作にはある。

実際は字面をなぞっているだけなのに、瞭司や熊沢や佐那のように、一端の数学者であるような、彼らと時を共有しているような気持ちになってきます。

「フラクタル」 という初めて聞く単語にどう反応したらよいかもわからずに、それでも構わず読み進めていくと、(瞭司の) 言わんとすることが、わずかながらも理解できたような気持ちになってきます。

フラクタルだよ。世界は全部、それで語られる

フラクタルは 〈自己相似〉 ともいわれる。自己相似な図形では、一部が全体と同じ形であり、どれだけ拡大しても同じ構造が出現する。たとえば、シダの葉を拡大して見れば、細部も葉全体と同じ形をした小さい葉で構成されている。さらに拡大して見れば、その小さな葉もより微小な葉で構成され、その微小な葉もまた極小の葉で構成される。

無限に続く同じ図形。それがフラクタルだ。
自然界に存在するものはたいてい複雑な構造を持つ。遠い山の稜線も、夏空の入道雲も、天から降る稲妻も、複雑に入り組んだ形であり、自己相似な構造を持っている。
これこそがこの世のすべてを語る言葉だと、瞭司は確信していた。(P103.104)

生まれながらにして、瞭司はあまりに純粋でした。あまりに才能に溢れ、あまりにも 「数覚」 に優れた人間でした。故に、彼の言動は中々に、並みの人間には理解されません。誤解を受け、時に疎まれたりもします。後半、読むほどに、彼の孤独が胸に迫っていたたまれなくなります。

この本を読んでみてください係数 85/100

永遠についての証明 (角川文庫)

◆岩井 圭也
1987年大阪府生まれ。
北海道大学大学院農学院修了。

作品 2018年、本作で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞。他に「夏の陰」「プリズン・ドクター」「文身」「水よ踊れ」「この夜が明ければ」等

関連記事

『魯肉飯のさえずり』(温又柔)_書評という名の読書感想文

『魯肉飯のさえずり』温 又柔 中央公論新社 2020年8月25日初版 魯肉飯のさえずり

記事を読む

『罪の轍』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『罪の轍』奥田 英朗 新潮社 2019年8月20日発行 罪の轍 奥田英朗の新刊 『罪の

記事を読む

『結婚』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『結婚』井上 荒野 角川文庫 2016年1月25日初版 結婚 (角川文庫)  

記事を読む

『殺戮にいたる病』(我孫子武丸)_書評という名の読書感想文

『殺戮にいたる病』我孫子 武丸 講談社文庫 2013年10月13日第一刷 新装版 殺戮にいたる

記事を読む

『生きる』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『生きる』乙川 優三郎 文春文庫 2005年1月10日第一刷 生きる (文春文庫) 亡き藩主

記事を読む

『てらさふ』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『てらさふ』朝倉 かすみ 文春文庫 2016年8月10日第一刷 てらさふ (文春文庫)

記事を読む

『ぴんぞろ』(戌井昭人)_書評という名の読書感想文

『ぴんぞろ』戌井 昭人 講談社文庫 2017年2月15日初版 ぴんぞろ (講談社文庫)

記事を読む

『絵が殺した』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『絵が殺した』黒川 博行 創元推理文庫 2004年9月30日初版 絵が殺した (創元推理文庫)

記事を読む

『くちなし』(彩瀬まる)_愛なんて言葉がなければよかったのに。

『くちなし』彩瀬 まる 文春文庫 2020年4月10日第1刷 くちなし (文春文庫)

記事を読む

『霧/ウラル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『霧/ウラル』桜木 紫乃 小学館文庫 2018年11月11日初版 霧 (小学館文庫) 北海道

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『夕映え天使』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『夕映え天使』浅田 次郎 新潮文庫 2021年12月25日20刷

『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)_書評という名の読書感想文

『向日葵の咲かない夏』道尾 秀介 新潮文庫 2019年4月30日59

『ミシンと金魚』(永井みみ)_書評という名の読書感想文

『ミシンと金魚』永井 みみ 集英社 2022年4月6日第4刷発行

『夏の陰』(岩井圭也)_書評という名の読書感想文

『夏の陰』岩井 圭也 角川文庫 2022年4月25日初版

『パイナップルの彼方』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『パイナップルの彼方』山本 文緒 角川文庫 2022年1月25日改版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑