『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『ナイルパーチの女子会』(柚木麻子), 作家別(や行), 書評(な行), 柚木麻子

『ナイルパーチの女子会』柚木 麻子 文春文庫 2018年2月10日第一刷

彼女の友情が私を食べ尽くす - 女同士の関係の極北を描く、傑作長編小説。第28回山本周五郎賞&第3回高校生直木賞受賞作。

丸の内の大手商社に勤めるやり手のキャリアウーマン・志村栄利子(30歳)。実家から早朝出勤をし、日々ハードな仕事に勤しむ彼女の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。決して焦らない「おひょう」独持の価値観と切り口で記される文章に、栄利子は癒されるのだ。その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人で気ままに暮らしているが、実は実家を捨て出て行った母親と、実家で傲慢なほど「自分からは何もしない」でいる父親について深い屈託を抱えていた。
偶然にも近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。同性の友達がいないという共通のコンプレックスもあって、二人は急速に親しくなってゆく。ブロガーと愛読者・・・・・・・そこから理想の友人関係が始まるように互いに思えたが、翔子が数日間ブログの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく・・・・・・・。(文藝春秋BOOKS/作品紹介)

※あとに、「担当編集者より」として以下のコメントがあります。

淡泊な味でさまざまな料理に使われる食用魚「ナイルパーチ」は、実は他の種を食べ尽くし、生態系を破壊するほどの凶暴性を持つ。偶然出会った二人の女性のどちらかが、もしナイルパーチのような凶暴な友情を持っていたとしたら・・・・・・・。その凶暴性を自分で抑えることができないとしたら・・・・・・・。友達がいることのありがたさと恐怖、そのことを徹底的に描きます。

随分と評判を取った作品。3年遅れでやっと読みました。

深い。

思う以上に深い内容に、なるほどこれが「高校生が選ぶ」直木賞だというのがわかります。大の大人の、30歳の女性の話ばかりが書いてあるわけではありません。人なら誰もが求め、もがき苦しむことが書いてあります。

(誰かに)構ってもらいたい。共感してほしい。この気持ちを分かち合いたい。できれば他の誰よりも親友に。そう呼べる相手に。それさえ叶えば全てが報われる。生きているという、意味になる - 。

昔々。あなたは「そのこと」でひどく悩みはしなかったでしょうか? 悩んだ末に相手に対し何かを過剰に求めたり、求め過ぎて相手が負担に感じ、逆に関係が悪化したりはしなかったでしょうか?

友情とは何なのでしょう。どんな関係を言うのでしょう。

何の打算も無しに全てを受け入れ、文句なく赦し合うこと。たとえ生きる方便は違えども、互いを認め敬い合うこと。言うべきことは言い、無闇に立ち入らない。適度に距離を置き、無理が無い。空気のように、しかし確かにいることに何より安心し、等々・・・・・・・

あなたには、そんな「友」がいますか? いないままの人生を、送ってはいないでしょうか。この小説にはそんなことが書いてあります。

もう一度言います。家族でも、恋人同士でも、職場の仲間でもない、「親友」と呼んで憚らない、そんな人物があなたの傍にはいるのでしょうか。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆柚木 麻子
1981年東京都世田谷区生まれ。
立教大学文学部フランス文学科卒業。

作品 「終点のあの子」「本屋さんのダイアナ」「ランチのアッコちゃん」「伊藤くんA to E」「その手をにぎりたい」他多数

関連記事

『満願』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『満願』米澤 穂信 新潮社 2014年3月20日発行 米澤穂信の『満願』をようやく読みました。な

記事を読む

『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『はるか/HAL - CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月1日発行 「再

記事を読む

『合理的にあり得ない』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『合理的にあり得ない』柚月 裕子 講談社文庫 2020年5月15日第1刷 上水流涼

記事を読む

『ゴールドラッシュ』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『ゴールドラッシュ』柳 美里 新潮文庫 2019年8月30日8刷 風俗店が並び立つ

記事を読む

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷 桜丘小学校の

記事を読む

『茄子の輝き』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『茄子の輝き』滝口 悠生 新潮社 2017年6月30日発行 離婚と大地震。倒産と転職。そんなできご

記事を読む

『ギッちょん』(山下澄人)_書評という名の読書感想文

『ギッちょん』山下 澄人 文春文庫 2017年4月10日第一刷 四十歳を過ぎた「わたし」の目の前を

記事を読む

『毒母ですが、なにか』(山口恵以子)_書評という名の読書感想文

『毒母ですが、なにか』山口 恵以子 新潮文庫 2020年9月1日発行 16歳で両親

記事を読む

『残された者たち』(小野正嗣)_書評という名の読書感想文

『残された者たち』小野 正嗣 集英社文庫 2015年5月25日第一刷 尻野浦小学校には、杏奈先

記事を読む

『流転の魔女』(楊逸/ヤン・イー)_書評という名の読書感想文

『流転の魔女』楊 逸(ヤン・イー) 文春文庫 2015年12月10日第一刷 居酒屋で時給900

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4

『悪逆』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪逆』黒川 博行 朝日新聞出版 2023年10月30日 第1刷発行

『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子)_書評という名の読書感想文

『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子 集英社文庫 2024年4月25日

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑