『BUTTER』(柚木麻子)_梶井真奈子、通称カジマナという女

『BUTTER』柚木 麻子 新潮文庫 2020年2月1日発行

BUTTER (新潮文庫 ゆ 14-3)

木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく -

男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。(新潮社)

結婚詐欺の末、男性三人を殺したとされる容疑者・梶井真奈子、通称カジマナ。事件が発覚すると、世間は若くも美しくもない太り気味の女性がなぜそんなに男から貢がれ自信に満ちているのか、男は興味本位に、女は男受けする秘密を知りたいと熱狂した。週刊誌記者の町田里佳もそのひとりだ。新しい側面を記事にしようと直接取材を敢行する。

拘置所で面会したカジマナの食に対するこだわりやとびきりの自信を作り上げた家族や成長環境に接するうちに、里佳は、ある時は解放され、ある時は束縛されて変貌していく。その変化は彼女の友人や恋人、家族をも巻き込み、生活は一変した。

女性の心の奥底に宿る悪意や闇を描く作家が着想を得た木嶋佳苗事件。だがキジカナとカジマナは全くの別人だ。

木嶋佳苗の自伝的小説 礼讃 を読んだとき、彼女の異常なまでの研究熱心さに驚愕したことを覚えている。食だけでなく文化や歴史、経済などを貪欲に学ぶ真面目さを違う方面で生かしていたら、きちんと成功を収めていたかもしれない。

BUTTER はその真面目さの一つの断面を小説として広げ創り上げていった。柚木麻子の手腕は見事だ。ねっとりとした本の紙の質が食べ物の描写のくどさを倍増させる。これは紙の本でなくては出会えない感触だった。

この本に出てくる女たちと自分は違うと読み終わった後、スーパーマーケットでカルピスバターを手に取っていた。物語に絡め取られていたのかもしれない。(あずまえりか/週刊文春 2017年6月15日号からの抜粋)

※「この本の主人公は、木嶋佳苗ではありません。私は、柚木を知りませんが、柚木も私を知りません」 とは、『BUTTER』 を読んだ木嶋佳苗本人のコメントです。おそらく、それはその通りなのでしょう。梶井真奈子は、モデルとなった木嶋佳苗の何倍も気持ち悪く書いてあります。

バター、バターで胸焼けするかもしれません。最後の七面鳥は圧巻でした。「読みながら、震えが止まらなかった。規格外の傑作だった」 - かどうかはわかりません。

この本を読んでみてください係数 85/100

BUTTER (新潮文庫 ゆ 14-3)

◆柚木 麻子
1981年東京都世田谷区生まれ。
立教大学文学部フランス文学科卒業。

作品 「終点のあの子」「本屋さんのダイアナ」「ランチのアッコちゃん」「伊藤くんA to E」「ナイルパーチの女子会」「その手をにぎりたい」他多数

関連記事

『検事の死命』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の死命』柚月 裕子 角川文庫 2019年6月5日8版 検事の死命 (角川文庫)

記事を読む

『ハラサキ』(野城亮)_書評という名の読書感想文

『ハラサキ』野城 亮 角川ホラー文庫 2017年10月25日初版 ハラサキ (角川ホラー文庫)

記事を読む

『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ひざまずいて足をお舐め』山田 詠美 新潮文庫 1991年11月25日発行 ひざまずいて足をお舐め

記事を読む

『八月は冷たい城』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『八月は冷たい城』恩田 陸 講談社タイガ 2018年10月22日第一刷 八月は冷たい城 (講

記事を読む

『走ル』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『走ル』羽田 圭介 河出文庫 2010年11月20日初版 走ル (河出文庫)  

記事を読む

『部長と池袋』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『部長と池袋』姫野 カオルコ 光文社文庫 2015年1月20日初版 部長と池袋 (光文社文庫)

記事を読む

『臣女(おみおんな)』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『臣女(おみおんな)』吉村 萬壱 徳間文庫 2016年9月15日初版 臣女 (徳間文庫) 夫

記事を読む

『憤死』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文

『憤死』綿矢 りさ 河出文庫 2015年3月20日初版 憤死 (河出文庫)  

記事を読む

『ふる』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『ふる』西 加奈子 河出文庫 2015年11月20日初版 ふる (河出文庫)  

記事を読む

『春の庭』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『春の庭』柴崎 友香 文春文庫 2017年4月10日第一刷 春の庭 (文春文庫) 東京・世田

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『愛のようだ』(長嶋有)_そうだ! それが愛なんだ。

『愛のようだ』長嶋 有 中公文庫 2020年3月25日初版 愛

『テミスの剣』(中山七里)_テミスの剣。ネメシスの使者

『テミスの剣』中山 七里 文春文庫 2017年3月10日第1刷

『カラスの親指』(道尾秀介)_by rule of CROW’s thumb

『カラスの親指』道尾 秀介 講談社文庫 2019年9月27日第28刷

『火のないところに煙は』(芦沢央)_絶対に疑ってはいけない。

『火のないところに煙は』芦沢 央 新潮社 2019年1月25日8刷

『AX アックス』(伊坂幸太郎)_恐妻家の父に殺し屋は似合わない

『AX アックス』伊坂 幸太郎 角川文庫 2020年2月20日初版

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑