『路上のX』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『路上のX』(桐野夏生), 作家別(か行), 書評(ら行), 桐野夏生

『路上のX』桐野 夏生 朝日新聞出版 2018年2月28日第一刷

こんなに叫んでも、私たちの声は届かないの?

幸せな日常を断ち切られた女子高生たち。ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス。かけがえのない魂を傷めながらも、三人の少女はしなやかに酷薄な大人たちの世界を踏み越えていく。最悪な現実と格闘する女子高生たちの肉声を物語に結実させた著者の新たな代表作。朝日新聞出版10周年記念作品。(帯文より)

桐野夏生の新刊。

ネグレクトにより路上生活を余儀なくされた三人の女子高生たち。(パッと見)如何にもそれらしくあるものの、親を捨て家を出て、行くあてはなく、寝る場所もない。制服姿ではあるものの、もはやそれは(欺くための)見せかけにしか過ぎません。

真由とリオナ - リオナの本名は、涙華。その如何にもな名前が厭で涙華は「リオナ」と名乗っています。もう一人が、ミト。ミトはリオナの友達で、本名は聡美。二文字をとり、自分のことを「ミト」と呼んでいます。

思いもしない妊娠。そして流産。義父から受けた辱しめ。揚げ句の果てのJKビジネス。容赦ない暴力。大人の男の見え透いた下心。仕組まれた凌辱と両親の裏切り。帰る家はなく、居る場所もない。仕方なく彼女らは夜の渋谷へ行き、いっとき生きる方便を探ります。

女子高生に声をかけてくるのは、高校生が御しやすく、安い相手だと見くびっている男がほとんどだ。彼らは、女子高生が小遣い欲しさに、男から声をかけられるのを待っている存在だと低く見ているのだ。(「第一章 真由」より)

この物語で最も切ないのは、reincarnaition - リインカネーション、ということ。転生、再生、生まれ変わり、再来、を意味します。つまり、

親が親なら、子も子 - 子どもは親を選べない。もしも生まれてきた家が違ったら、育てられた両親が別の人であったなら、こうはならなかったのにと - そんな思いを捨てられず、孤独に喘ぐ彼女らは更に絆を強くします。顧みようとはせず、より遠くへ行こうとします。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆桐野 夏生
1951年石川県金沢市生まれ。
成蹊大学法学部卒業。

作品 「OUT」「グロテスク」「錆びる心」「東京島」「IN」「夜また夜の深い夜」「奴隷小説」「バラカ」「猿の見る夢」「夜の谷を行く」「デンジャラス」他多数

関連記事

『神様』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『神様』川上 弘美 中公文庫 2001年10月25日初版 なぜなんだろうと。なぜ私はこの人の小説

記事を読む

『すみなれたからだで』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『すみなれたからだで』窪 美澄 河出文庫 2020年7月20日初版 無様に。だけど

記事を読む

『祝山』(加門七海)_書評という名の読書感想文

『祝山』加門 七海 光文社文庫 2007年9月20日初版 ホラー作家・鹿角南のもとに、旧友からメー

記事を読む

『墓地を見おろす家』(小池真理子)_書評という名の読書感想文

『墓地を見おろす家』小池 真理子 角川ホラー文庫 2014年2月20日改訂38版 都心・新築しかも

記事を読む

『うちの父が運転をやめません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『うちの父が運転をやめません』垣谷 美雨 角川文庫 2023年2月25日初版発行

記事を読む

『悪果』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪果』黒川 博行 角川書店 2007年9月30日初版 大阪府警今里署のマル暴担当刑事・堀内は

記事を読む

『連続殺人鬼カエル男』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男』中山 七里 宝島社 2011年2月18日第一刷 マンションの13階からぶら

記事を読む

『ロコモーション』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『ロコモーション』朝倉 かすみ 光文社文庫 2012年1月20日第一刷 小さなまちで、男の目を

記事を読む

『それもまたちいさな光』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『それもまたちいさな光』角田 光代 文春文庫 2012年5月10日第一刷 【主人公である悠木

記事を読む

『天頂より少し下って』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『天頂より少し下って』川上 弘美 小学館文庫 2014年7月13日初版 『天頂より少し下って

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『神童』(谷崎潤一郎)_書評という名の読書感想文

『神童』谷崎 潤一郎 角川文庫 2024年3月25日 初版発行

『孤蝶の城 』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『孤蝶の城 』桜木 紫乃 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『春のこわいもの』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『春のこわいもの』川上 未映子 新潮文庫 2025年4月1日 発行

『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)_書評という名の読書感想文

『銀河鉄道の夜』宮沢 賢治 角川文庫 2024年11月15日 3版発

『どうしてわたしはあの子じゃないの』(寺地はるな)_書評という名の読書感想文

『どうしてわたしはあの子じゃないの』寺地 はるな 双葉文庫 2023

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑