『虜囚の犬/元家裁調査官・白石洛』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文
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『虜囚の犬/元家裁調査官・白石洛』(櫛木理宇), 作家別(か行), 書評(ら行), 櫛木理宇
『虜囚の犬/元家裁調査官・白石洛』櫛木 理宇 角川ホラー文庫 2023年3月25日初版発行
史上最悪の監禁犯を殺したのは、誰? 『死刑にいたる病』 の著者が描く、おぞましくもせつない最恐の衝撃作! 読み始めたら止まらない! 連載読者満足度98%!!
元家裁調査官の白石洛は、友人で刑事の和井田から、ある事件の相談を持ちかけられる。白石がかつて担当した気弱な少年、薩摩治郎が、7年後の今、安ホテルで死体となって発見されたという。しかし警察が向かった治郎の自宅には、鎖に繋がれ痩せ細った女性と、庭には死体が。なんと治郎は女性たちを監禁、殺害後は 「肉」 として他の女性に与えていたという - 。残酷な事件に隠された真実とは? 戦慄のサスペンスミステリ! (角川ホラー文庫)
登場人物が非常に多く、一人ひとりについて正しく認識し、常に立ち位置を確認しておくことが肝要かと。特に第三章からはそれまでとはまるで異なるパートが始まり、話はさらにややこしくなります。整理しつつ、推理しながら読んでください。
にしても -
人は、なぜ人を殺したいと思うのでしょう? 人を人とも思わないような残虐なやり方で、どうして人を殺すことができるのでしょう。一線を越えてしまう背景には、一体何があるのでしょう。
- 何故、人間は人間を殺すのか。それも、愛憎や復讐や金銭欲といったわかりやすい動機によってではなく、快楽を追い求めるように理不尽な殺戮を繰り返すのか - そんな精神構造の不可思議に対する探究心が、著者の中には常に存在し続けているようなのだ。
*
光文社のウェブサイト 《本がすき。》 掲載のインタビュー (2020年8月8日) で、著者は本書の事件の発想源がゲイリー・ヘイドニック (1986年から翌年にかけて6人の黒人女性を監禁し、そのうち2人を殺害したアメリカのシリアルキラー。犠牲者を解体してドッグフードに混ぜ、他の女性たちに食べさせていた) の事件であることを明かし、「私の作品には自己評価の低い人間がよく登場しますが、それは自己評価の低い人同士で抑圧の連鎖を続けているのでは、と考えているからなんです。治郎は、監禁した女性に対しては強者ですが、治郎自身がいじめや抑圧を受けていたので、そこから考えたら弱者です。”絶対的な強者は存在するのか” 。それが今回のテーマでした」 と創作意図を説明している。(解説より抜粋)
離れの地下に監禁し、その後、死んだ女性を解体したのち一部の肉をミンチにし、ドッグフードに混ぜ込んで、それを食べろと言ったのでした。そう言われた女性もまた犠牲者で、治郎がネットで見つけた人物でした。
彼は、明らかに人 (女性) を選別しています。そしておそらくは、やりたくてやっているわけではありません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆櫛木 理宇
1972年新潟県生まれ。
大学卒業後、アパレルメーカー、建設会社などの勤務を経て、執筆活動を開始する。
作品 「ホーンテッド・キャンパス」「赤と白」「侵蝕 壊される家族の記録」「209号室には知らない子供がいる」「死刑にいたる病」「ぬるくゆるやかに流れる黒い川」他多数
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