『学校の青空』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『学校の青空』角田 光代 河出文庫 2018年2月20日新装新版初版


学校の青空 (河出文庫)

いじめ、うわさ、夏休みのお泊り旅行・・・・・・・お決まりの日常から逃れるために、少女たちが試みた、ささやかな反乱。生きることになれていない、小学生から高校生までの主人公たちの、不器用なまでの切実さを描く、直木賞作家の傑作青春小説集。「学校ごっこ」「夏の出口」など四篇を収録。(河出文庫)

「放課後のフランケンシュタイン」

体育の時間はマラソンだったので腹痛がすると授業を抜け出して二号館の屋上に上がり、体操着はなんだってこんなにダサいのだろう、十四にもなってブルマーをはかされるなんて拷問のようだととりとめもなく考えて、汚れたコンクリートに横たわっていた。遠くにグラウンドが見え、クラスメイトたちが頭のおかしいねずみみたいに四角いグラウンドを丸く走っている。

夏休みが始まる前まで、この位置からでも見分けることができたカンダの姿はもう見当たらない。五歩足を踏み出すごとに眼鏡を懸命にずり上げ、だれもカンダのことなんか見ていないのにおどおどとまわりを窺いながら走る姿を、今朝見たテレビのニュースキャスターより鮮明に思い出すことができる。その姿をなんとなく思い起こしていると、あのにおいまで漂ってくる気がして私は大きく息を吐いた。

彼女特有の、腐った果実みたいな正体不明のにおい。あのにおいはいったいなんだったんだろう? 下着を取り替えないのか? 髪を洗わないのか? 朝ごはんに何か変なものを食べているのか? でももうカンダはいないのだ。もしかしたらもう一生、あのにおいも嗅ぐことはなく、あのにおいの正体を知ることもないのだ。私はいらいらと爪を噛んだ。

直接さわるのがいやなのでわざわざ軍手をはめて上履きも革靴も捨てたし、ペンケースをトイレに捨てて拾ってこさせたし、カンダのブルマーを黒板に貼りつけたこともあったし、トイレの水につけたポッキーをむりやり食べさせたし、みんなに聞こえるような声で 「あんたってワキガ持ちなの? 臭くてお弁当が食べられない」 と叫んだし、あとは何をやったんだか、もう覚えていないくらい意地悪をした。

ほかの人を扇動した覚えはなかったのに、いつの間にかクラス全員が彼女をいじめ始めて、そのときの団結力は目を見張るものがあった。私よりも独創的なやり方でいじめているクラスメイトもいて、そんなとき出番のない私は黙って見ていたのだが、かえってそれは迷惑だった。自分の手で何かしなければ私の中の電熱器は熱をためこんだままだった。

そのうちカンダは、学校にいなくなります。九州へ引越したといい、そうではなくて、一年に及ぶ私のいじめでノイローゼになり、病院に通っているのだといいます。

彼女がいなくなったあと、私の、カンダに向けられた狂気は、次にカナコへと向かいます。

※収録作品は、「パーマネント・ピクニック」「放課後のフランケンシュタイン」「学校ごっこ」「夏の出口」、以上4編。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


学校の青空 (河出文庫)

◆角田 光代
1967年神奈川県横浜市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「空中庭園」「かなたの子」「対岸の彼女」「紙の月」「八日目の蝉」「笹の舟で海をわたる」「ドラママチ」「トリップ」「それもまたちいさな光」他多数

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