『さよならに反する現象』(乙一)_書評という名の読書感想文

『さよならに反する現象』乙一 角川文庫 2026年1月25日 初版発行

哀しみの先には、何があるのだろう - 。恐ろしくて切ない物語。

胸が裂けるほど苦しい夜もある。

リストラされた私は、妻と息子に言えず、クマの着ぐるみを着て風船を配るアルバイトをしている。ある日曜日、バイト先の住宅展示場で風船をもらいにやってきた子供の1人が息子だと気づいた瞬間・・・・・ (「そしてクマになる」)。心霊写真の作成が趣味の僕。あるとき撮影中に1人の写りたがりの幽霊が現れる。彼女がこの世に残した未練とは? (「悠川さんは写りたい」) 他、切なく怖くて優しい、書き下ろしを含む全9篇。(角川文庫)

「さよならに反する現象」 と付けたタイトルの意味がイマイチわかりません。冒頭の 「そしてクマになる」 などはよいのですが、たとえば、中に (短い) こんな話があります。

犬が婚約者を追い返した話

 ある男性が婚約者の女性を家に招いたら、飼っていた犬が異様に吠え始めて手がつけられなくなった。
 普段は賢くておとなしい犬なのに。
 なにか変だぞとなって、婚約は白紙の状態に・・・・・・・。
 それからしばらくして。
 婚約者の女性の浮気が発覚。
 だから犬は吠えていたのだ!
 と思った男性は元婚約者を拉致して殺して埋めました。
 男性はそういう性格だったのです。
 婚約者の女性に犬が吠えていたのは、
逃げて!と叫んでいたのでした。

怖い話ではありますが、「せつなく」 はありません。せつなくなるには短すぎて、「ぞわっ」 として終わり、という感じ。箸休めみたいなものでしょうか - と考えていたら、解説に少し 「理由」 が書いてあります。

- ところで、本書のタイトルは 『さよならに反する現象』 だが、収録作の中に 「さよなら」 の四文字は出てこない (「バイバイ」 と 「さようなら」 は一回ずつ登場 )。その四文字が出てくるのは、本書の単行本版の五ヶ月前に発表された長編 『一ノ瀬ユウナが浮いている』(二〇二一年) のラストだ。

十七歳で事故死し、幽霊となった同級生の少女との特別な関係が終わる、終わらせなければならないとなる場面で、主人公は勇気を出して 「さよなら」 の四文字を伝える。その刹那 - 〈うれしさと、寂しさで、胸の中がいっぱいだ〉。

刊行時期が近かったこともあるのだろう、同作における 「さよなら」 の使われ方は、『さよならに反する現象』 の物語たちの感触とぴったり合致している。ポジティブとネガティブ、陽と陰、両極の感情が重ね合わせられる時、人は 「せつない」 という言葉を使う。乙一作品と 「せつない (せつなさ)」 の一語は、さまざまな点でよく似合う。(解説より)

※著者の変幻自在さは百も承知でしたから、今回はまあ善しとしましょう。色んな作品が楽しめて、久しぶりの乙一でした。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆乙一

1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。豊橋技術科学大学工学部卒業。

作品 「失踪 HOLIDAY」「銃とチョコレート」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」「暗いところで待ち合わせ」「ZOO」「箱庭図書館」「死にぞこないの青」「小説 シライサン」他多数

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