『草祭』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『草祭』(恒川光太郎), 作家別(た行), 恒川光太郎, 書評(か行)
『草祭』恒川 光太郎 新潮文庫 2011年5月1日 発行
たとえば、苔むして古びた水路の先、住宅街にひしめく路地のつきあたり。理由も分からずたどりつく、この世界のひとつ奥にある美しい町 〈美奥〉。母親から無理心中を強いられた少年、いじめの標的にされた少女、壮絶な結婚生活の終焉をむかえた女・・・・・・・。ふとした瞬間迷い込み、その土地に染みこんだ深い因果に触れた者だけが知る、生きる不思議、死ぬ不思議、神妙な命の流転を描く、圧倒的傑作。(新潮文庫)
不思議な町の、物の怪 (もののけ) の気配漂う物語。その町は、この世界のひとつ奥にあるといいます。〈美奥〉 は、誰もが行けるところではありません。導かれ、行けと言われてはじめて行ける場所です。
この小説集 『草祭』 は、「美奥」 という奇妙な土地を舞台にした五つの物語が収録されている。現実から少し離れた不思議な世界が展開し、神話や民話のような肌触りをもつ作品ばかりだ。
*
舞台となっている不思議な土地 「美奥」 は、作中の言葉を借りると 〈この世界の一つ奥にある美しい町〉 である。「夜市」 のように別の世界とまじわる 〈境界〉 というよりも、そのままこの世のむこうの 〈異界〉 として描かれている。そこには人間が言葉を持つ以前、動物だったころの原風景が広がっている。読んでいると、どこか懐かしい気持ちを抱いたり、奇妙な安らぎを感じたりするのも当然だ。しかし、神話や民話のようだといいながら、「けものはら」 で扱われる母子心中にせよ、「屋根猩猩」 でヒロインが受ける学校のいじめにせよ、「朝の朧町」 の不倫殺人にせよ、なにか現代社会の暗い一面をテーマにしているようにも思える。なぜこのような殺伐とした事件が扱われ、それが美奥を舞台に展開していくのだろうか。(解説より)
「夜市」:著者の小説で初めて読んだ作品で、そういえば本作とよく似た感じがしたのを覚えています。
※「限りなくファンタジーに近いホラー」 とでも言えばよいのでしょうか。現代的な話の中に昔々の妖しげな逸話が交ざり込み、ちょっとホラーなところもあって・・・・・・・夢と現実の間を行ったり来たりしつつ読み終えました。第三話 「くさのゆめがたり」 と第四話 「天化の宿」 がお薦めです。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆恒川 光太郎
1973年東京都武蔵野市生まれ。
大東文化大学経済学部卒業。
作品 「夜市」「雷の季節の終わりに」「金色の獣、彼方に向かう」「秋の牢獄」「金色機械」「滅びの園」他多数
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