『ずうのめ人形』(澤村伊智)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/10 『ずうのめ人形』(澤村伊智), 作家別(さ行), 書評(さ行), 澤村伊智

『ずうのめ人形』澤村 伊智 角川ホラー文庫 2018年7月25日初版

不審死を遂げたライターが遺した謎の原稿。オカルト雑誌で働く藤間は後輩の岩田からそれを託され、作中の都市伝説 「ずうのめ人形」 に心惹かれていく。そんな中 「早く原稿を読み終えてくれ」 と催促してきた岩田が、変死体となって発見される。その直後から、藤間の周辺に現れるようになった喪服の人形。一連の事件と原稿との関連を疑った藤間は、先輩ライターの野崎と彼の婚約者である霊能者・比嘉真琴に助けを求めるが - !? (角川ホラー文庫)

(さあ想像しながら読んでみてくだい。想像すればするほどきっとあなたは怖くなります)

最初は遠くに見えていた。今はベッドの脇にいる。
傍らで突っ立って、こっちを見上げている。
頭から布団をかぶっていても分かった。
するはずのない気配がするからだ。ここには誰もいないはずなのに。
頭の中に姿が浮かぶ。いつの間にか視界の片隅にいたその姿が。
やつの姿が。

あの子から聞いたとおりの格好をしている。
猫くらいの大きさで、黒い振袖を着ている。おかっぱ頭で、手をだらりと垂らして、首は少しだけ傾いている。そしてその顔は真っ赤な -
わたしは思わず目を開けた。真っ暗な布団の中で息を継ぐ。
この暗闇の外側のことを考えてしまう。布団一枚隔てた向こうにいる、やつのことを。
やつは四日かけて、この距離まで詰めてきたのだ。

(これだけで、もうこわい。いるはずのない何者かの気配に圧倒され、振り向こうにも振り向けない - 夜中の電話でふいに「後ろを見るな」と言われた時みたいな・・・・・・・ )

わたしは布団を撥ね除けた。意を決して傍らを見る。
ベッドの脇には何もなかった。どこへ、と思った瞬間。
ふふ、ふふふふふ
背後で笑い声がした。わたしは反射的に声のした方を向いてしまう。
やつが目の前にいた。
黒くて白くて赤い -
人形が

枕の上に突っ立って、わたしの鼻の先に、毛羽立って、ほつれて、絡まり合った真っ赤な真っ赤な -
くふふふふふふふふ
糸の奥から笑い声が漏れ聞こえた。

友達のおばあちゃんが子供だったころの話です。
おばあちゃんは、ある田舎のお屋しきに住んでいました。お屋しきは広くて、友達とよくかくれんぼをして遊んでいたそうです。
ある日、おばあちゃんはいつものようにかくれんぼをして、家の裏にある大きな蔵に入ったそうです。その時は鍵が開いていました。
古いつづらでいっぱいの、暗い蔵の中で、おばあちゃんは身をかくしました。
鬼をやっていた友達が来ないので、退くつしたおばあちゃんは蔵の探検をしました。すると、古い小さな木の箱を見つけました。ほこりを払って開けると、中には人形が入っていました。
黒いふりそでを着た、女の人の人形でした。
顔だけが、赤い糸で何重にもぐるぐる巻きにされていました。
それを見たおばあちゃんは、とてもいやな気持ちになったそうです。
おばあちゃんがいなくなった、と友達が泣いて騒いだので、おばあちゃんのお父さんとお母さんが、家中を探して蔵を開けました。おばあちゃんはとても怒られましたが、人形の話をすると、二人は急にだまって、友達を帰しました。そして、お座しきでおばあちゃんに、人形の話をしました。
あれは、ずうのめ人形というんだよ
ずっと昔から家にある、呪いの人形だ
こわしても捨てても呪われる。だから顔をしばって、ふういんしているんだよ
「えらいおぼうさんにたのんで」
お父さんとお母さんは、怖い顔でそう言いました。(都市伝説「ずうのめ人形」より)

しばらくの後、おばあちゃんの友達(一緒にかくれんぼをしてしていた子)は、急に病気になって死んだそうです。おばあちゃんはとても悲しくて泣いてばかりいました。するとお母さんが、

ずうのめ人形がやったんだよ。たまにそういうことをする - と言いました。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆澤村 伊智
1979年大阪府生まれ。
大阪大学卒業。

作品 「ぼぎわんが、来る」「ししりばの家」「恐怖小説 キリカ」他

関連記事

『悪い夏』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『悪い夏』染井 為人 角川文庫 2022年1月5日8版発行 クズとワルしか出てこな

記事を読む

『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版 3ヶ月前、マンションの一室でアサミ

記事を読む

『しゃべれども しゃべれども』(佐藤多佳子)_書評という名の読書感想文

『しゃべれども しゃべれども』佐藤 多佳子 新潮文庫 2012年6月10日27刷 俺は今昔亭三つ葉

記事を読む

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日 初版1刷発行 『悪い夏』

記事を読む

『佐渡の三人』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『佐渡の三人』長嶋 有 講談社文庫 2015年12月15日第一刷 物書きの「私」は、ひきこもり

記事を読む

『政治的に正しい警察小説』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文

『政治的に正しい警察小説』葉真中 顕 小学館文庫 2017年10月11日初版 飛ぶ

記事を読む

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行 事実が、真実でないとし

記事を読む

『君の膵臓をたべたい』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『君の膵臓をたべたい』住野 よる 双葉社 2015年6月21日第一刷 主人公である「僕」が病院で

記事を読む

『人生相談。』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『人生相談。』真梨 幸子 講談社文庫 2017年7月14日第一刷 父が遺してくれた家に、見知らぬ家

記事を読む

『月の満ち欠け』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『月の満ち欠け』佐藤 正午 岩波書店 2017年4月5日第一刷 生きているうちに読むことができて

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑