『晩夏光』(池田久輝)_書評という名の読書感想文

『晩夏光』池田 久輝 ハルキ文庫 2018年7月18日第一刷


晩夏光 (ハルキ文庫)

香港。この地には、観光客を標的に窃盗する 『スリ』、その盗品を売りさばく 『露店』、出回った盗品を探し出し、持ち主から手数料を得る 『回収』 とそれぞれグループが存在し、そこには三者共存の掟があった。ある日、回収側の人間である劉巨明(ラウゴイミン)が、何者かによって殺害された。仲間であった新田悟は、巨明の妻からあるメモを渡された。メモには巨明の文字で 「任家英(ヤムガーイン)に気を付けろ」 と謎のメッセージが残されていた。そして新田は、香港の闇社会に渦巻く悲しみの深淵に巻き込まれていく - 。(ハルキ文庫)

第5回 角川春樹小説賞受賞作

悪くはありません。しかし、イマイチ何かが欠けているような、どこか物足りない感じがします。「香港」 はいいにして、あとは全てが、いつかどこかで読んだことがあるような。

新田悟陳小生(チャンシウサン)、劉巨明任家英羅朝森(ローチウサム)、許志倫(ホイヂーロン)・・・・・・・ 本当に描きたかったのは誰なのでしょう? 新田なら新田で、もっと新田を特化して書けばよかったのに。

中でいっとう残念だったのは、今彼がなぜ香港にいるのか、何があって日本から逃れてきたのか、ということです。その理由があまりに陳腐で、あ然としました。無いなら無いでよかったものを、無理に捻り出したようで読むに堪えない気持ちで読みました。

物語は、こんな感じで綴られています。

時刻は午後十一時になろうかという頃だった。旺角付近に出た新田は、煌びやかなネオン看板とは裏腹に茫然としていた。まだ頭には痺れにも似た鈍痛がある。こんな感覚は初めてだった。

傍の便利店で切れていたタバコを買い、通りに身を乗り出して強引に的士を拾った。
「維多利亞灣へ」 湿気に覆われた港。 こちらに来て以来、何度となく訪れている場所である。いや、それはもう日課と言ってもいい。

一仕事を終えると、自然と体はそちらへ向かう。新田がこの地に足を踏み入れ、最初にやって来たのもここだった。九龍半島の突端、維多利亞灣に沿って作られたプロムナード。そこからじっと海を眺めるのだ。(第一章「二〇一二年 夏 八月一日~二日」より抜粋)

※ 旺角はモンコックと読みます。便利店がコンビニで、的士はタクシー。維多利亞灣とあるのは、あの有名なビクトリアハーバーのことです。

香港島に九龍半島。彌敦道(ネイザンロード) に女人街。露店が軒を連ねるマーケット -

鞄や時計、あるいは土産物としての雑貨で溢れ、大量の衣料品が所狭しと吊られている。どの店も似たようなもので、違っているのは扱う商品の比率くらいだろうか。それでも、多くの人が集まる観光名所である。そして同時に、新田らの職場でもあり、スリ連中が盗んだ品を売り捌く場所の一つでもあった。(P25)

※私も一度だけ行ったことがあります。一度だけですが、書いてある場所やその雰囲気はとてもよくわかります。ツアー客なら着いたその日の夜に連れていかれるのが、ビクトリアハーバー。その絶景は今も忘れることができません。妖しく聳える景色相応に、もっとハードに書いてほしかったものです。

 

この本を読んでみてください係数  75/100


晩夏光 (ハルキ文庫)

◆池田 久輝
1972年京都府生まれ。
同志社大学法学部卒業。

作品 「枯野光」「まるたけえびすに、武将が通る。」「虹の向こう」「ステイ・ゴールド」他

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