『いっそこの手で殺せたら』(小倉日向)_書評という名の読書感想文

『いっそこの手で殺せたら』小倉 日向 双葉文庫 2024年5月18日 第1刷発行

覚悟がある人だけ読んで下さい 「最凶ミステリー降臨!!

悪夢は妻が逮捕された日から始まった

元教師のライター・筒見芳晃は十歳年下の可愛い妻・絵梨、年頃の愛娘・紗梨奈と何不自由のない暮らしを営んでいた。だが、穏やかな日々は突如一変する。勤め先から妻が帰ってこない。携帯電話も不通。不吉な予感に駆られて交番を訪ねた芳晃は、驚天動地の事実を告げられる。しかしそれは、やがて始まる忌まわしい悪夢の幕開けに過ぎなかった!! 衝撃ミステリー 『極刑』 で鮮烈デビューを飾った小倉日向が放つ、業と毒の問題作。(双葉文庫)

物語の冒頭、プロローグを読むと、これは 「下衆で卑猥が売りのポルノ小説」 ではないかと、あなたはきっと思うことでしょう。私は思いました。選んだ本を間違えたのではないかと。このまま読み進めても、徒に劣情を催すだけで、得るものなどないのではないかと。

結論を言います。そこはそことしていったん留め置いて、すかさず第一章を読んでください。続けて二章、三章と。事の行き先は、まるで見えなくなっていきます。そして終盤間際になって、ようやくその (プロローグの) 意図に辿り着きます。

主人公の筒見芳晃は、元高校教師で、今は教育関係のライターをしている。家族は妻の絵梨と、中学1年の娘の紗梨奈。最近、娘が反抗期で、干渉の多い妻に反発しているが、それも含めてどこにでもある普通の家庭だ。

だがある日、絵梨が行方不明になる。バイト先も知らないため、どこを探したらいいか分からず、やきもきしていた芳晃のもとに、警察から連絡がきた。杉並警察署生活安全課の小柴の話によれば、迷惑防止条例に違反した容疑で逮捕されたという。

接見もできないため雇った弁護士に行ってもらうが、すでに妻のバイト先が雇ってくれた沼田という弁護士が担当になっていた。あやふやな沼田の態度に不信感を強めながら、釈放される妻を迎えに行った芳晃。だがそこから事態は、予想外の方向へ転がっていく。

妻が釈放された場面で、意表を突いたサプライズがあるのだが、詳しく書くのは控えよう。えっ、これからどうなると、一気に物語に引き込まれるはずだ。

実は本書の冒頭で、男性教師が女子生徒をレイプする場面が描かれている。その教師が芳晃ではないかという疑問が、薄っすらと付きまとい、モヤモヤした気持ちでページを捲ることになる。読んでいるうちにそうではないと分かるが、この疑問が物語への興味を深めていることは間違いない。(以下省略/細谷正充 webサイト 「COLORFUL」 より )

※事の核心は、なかなか見えてきません。「性犯罪」 がテーマのこの物語は、結局どんな形で終わりを迎えるのか。被害者は救われ、加害者は裁かれる。そんな話で終わるのでしょうか? 

終わる、わけがありません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆小倉 日向
1964年新潟県生まれ。
上越教育大学大学院修了。

作品 2020年、『極刑』 にてデビュー。近著に 『東京ゼロ地裁 執行2 』

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