『日輪の遺産/新装版』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『日輪の遺産/新装版』浅田 次郎 講談社文庫 2021年10月15日第1刷

日輪の遺産 新装版 (講談社文庫)

これこそが、浅田次郎だ。
号泣必至! 敗戦後の日本を守るために命を懸けた人々を描く、魂揺さぶる物語。

その額、時価200兆円。敗戦後の日本を復興に導くため、マッカーサーから奪った財宝を隠す密命を日本軍は下す。それから47年。不動産事業で行き詰った丹羽は、不思議な老人から財宝の在り処を記した手帳を託される。戦争には敗ける。しかし日本はこれでは終わらない。今こそ日本人が読むべき、魂の物語。(講談社文庫)

浅田次郎の本を読もうと思うようになった一番の理由は何だったのか。つらつら考えるに、なんだそんなことだったのだ、という結論に至ります。

浅田作品はどれも面白い。涙し、笑い、憤慨し、余韻に浸りながら自然と襟が正されていく」(解説より) ということは、確かにそうに違いない。それでも読もうとしなかったのは、多分、私が今よりずっと若かったからだと思います。

他に読みたいと思う作家が何人もいました。これはと思う新人作家の作品が次から次へと登場し、すでにスタンダードの域にあった浅田作品を 「読むのは今でなくてもかまわない」 という気持ちがどこかにありました。歳を取り、今に至って、それがそうは言っていられなくなりました。

時はバブル経済がはじけた後の平成の世。苦境に立つ不動産会社社長の丹羽明人は、府中競馬場で真柴という老人と出会う。ところが一冊の黒革の手帳を丹羽に託した直後、老人は心臓発作を起こして死んでしまう。

そこには、敗戦直前、陸軍が臨時軍事費の名目で国庫から出させた九百億円を秘匿したことが記されていた。簡単な手帳の記述の背後にあった資金運びの隠密行と、それを読み解く現代が交錯しながら展開する。老人はかつて密命を帯びた陸軍少佐だったのだ。

お宝を追う物語と思いこみワクワクしている頭の片隅に、ずっとひっかかるのが 「序章」 の存在だ。十三歳の女学生三十五人がトラックの荷台に乗せられ、どこかに運ばれていった。戦時中でも明るさを失わず、しかも軍国少女の彼女たちは、運ばれた先でもけなげに働く。だが、過酷な運命が待ち受けていた。真柴少佐の奮闘もむなしく、運命の歯車は止まらなかった。これだけでも目頭を熱くするに十分なのだが、さらに一段先がある。

九百億円 (物語の舞台である平成初期の時価ではなんと二百五十兆円) は、本土決戦のための軍事費ではなく、戦後の危機を乗り越えるための資金だった。丹羽が 「欲がなくなったとき、こいつは宝さがしの物語じゃねえと気付いたんだ。つまりだな、これは 国生みの神話だ」 と看破したことが肝となる。

大団円に向けて物語は疾走する。お宝が隠されている場所に至った者は、どうしてもそれを手にすることができない。崇高な意思を問う “守り神” がいたからだ。その神を前にすると卒然と自らを省みる。「責任の自覚、そして勇気」 があるか、お宝を手にする覚悟があるかを問われるのだ。「勇気だけが、歴史を作る」 のである。この声こそが “日輪の遺産” であった。(解説より)

文庫の表紙をご覧ください。終戦間際の話でありながら、描かれているのは戦車でも、戦闘機でも、兵隊でもありません。ある特別な使役のために召集された、私立森脇高女の二年生三十五名のうちの一人の少女が描かれています。

当時十二、三歳だった少女たちは、著しい苦境にあって、尚神国・日本の勝利を信じています。表紙の絵の少女は、凛として前を向き、敵と闘う姿勢に満ち溢れています。長い髪を束ねた鉢巻きには、深紅の日の丸を間に挟んで「七生報國」 と認められています。

この本を読んでみてください係数 85/100

日輪の遺産 新装版 (講談社文庫)

◆浅田 次郎
1951年東京都中野区生まれ。
中央大学杉並高等学校卒業。

作品 「地下鉄に乗って」「鉄道員」「壬生義士伝」「お腹召しませ」「中原の虹」「帰郷」「獅子吼」「天国までの百マイル」他多数

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