『夜に啼く鳥は』(千早茜)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/09
『夜に啼く鳥は』(千早茜), 作家別(た行), 千早茜, 書評(や行)
『夜に啼く鳥は』千早 茜 角川文庫 2019年5月25日初版
辛く哀しい記憶と共に続く永遠の命。
いつしか、小さきものたちがひっそりとこの身に宿っていた。闇で瞬くその緑色の光を美夜子は視ることができなかった。美夜子は人間だったから。
わたしは違う。けれど、違うということがわかるだけで、未だに自分がなにものであるかわからない。男でも、女でも、人でもない。わからぬまま生かされている。
自らを示す名はひとつ。
御先という、一族の長に与えられる名のみだ。(P44)
千早茜が描く妖しくも切ない、愛と命の物語。
不老不死の一族に生まれ、その長となった御先 (みさき) は、性別を持たず、他人にない治癒能力を持ち、老いることがありません。少女のような外見のまま、150年以上の時を過ごしています。
男でも、女でも、人でもない。永遠の命を与えられ、しかし何ものであるかもわからぬまま生かされている身の御先は、やがて、自らに問うことになります。
「わたしは誰かを愛せるのか」 - と。
奇譚と言うには余りに辛く切ない物語。彼女のデビュー作 『魚神』 を読み、涙した方ならきっとわかるはずです。人とは違う “化け物” の話でありながら、ここには、 “人が生きる” ということの 「本質」 が描き出されています。
かつて、これほど美しくて哀しい “化け物” がいただろうか -- 。
古来、傷みや成長を食べる 「蟲 (むし)」 を体内に宿す不老不死の一族があった。その一族は地図にのらない里で、長い間、人目をはばかって暮らしていた。里の岬には、八百比丘尼とも言われる “シラ” という一族の祖を祀っていた。その末裔のなかでも強大な力を得た御先 (みさき) は、どんな傷も病も治す能力を持ち、150年以上生きているとは思えぬ10代のままのような美しさで、ふたなりの身体を持ち、性別はもはや定かでない存在として畏れられてきた。今では、時の権力者の施術を生業として暮らしている御先だったが、付き人だった玄孫 (やしゃご) の雅親 (まさちか) をつき離し、一族の里を離れ、夜の店で働いていた傍系の四 (よん) と行動をともにするようになり、ある “事件” に巻き込まれることになり・・・・・・・。主人公たちの過去と今が交錯し、時代を超えて現れる愛しい人・・・・・・・。不老不死の一族の末裔が現代の都会に紛れ込む - 妖しくも美しく、そして哀しい現代奇譚。泉鏡花文学賞受賞作家が挑む新境地。(webサイト KADOKAWAより)
[目次]
・シラ
・はばたき
・梟 (ふくろう)
・ひとだま
・かみさま
・躑躅 (つつじ) *(単行本)書き下ろし
この本を読んでみてください係数 85/100
◆千早 茜
1979年北海道江別市生まれ。
立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業。
作品 「魚神(いおがみ)」「おとぎのかけら/新釈西洋童話集」「からまる」「森の家」「桜の首飾り」「あとかた」「眠りの庭」「男ともだち」他
関連記事
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』(中野量太)_書評という名の読書感想文
『湯を沸かすほどの熱い愛』中野 量太 文春文庫 2016年10月10日第一刷 夫が出奔し家業の銭湯
-
『青空と逃げる』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『青空と逃げる』辻村 深月 中公文庫 2021年7月25日初版 深夜、夫が交通事故
-
『45°ここだけの話』(長野まゆみ)_書評という名の読書感想文
『45° ここだけの話』長野 まゆみ 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 カフ
-
『蓮の数式』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『蓮の数式』遠田 潤子 中公文庫 2018年1月25日初版 35歳のそろばん塾講師・千穂は不妊治療
-
『徴産制 (ちょうさんせい)』(田中兆子)_書評という名の読書感想文
『徴産制 (ちょうさんせい)』田中 兆子 新潮文庫 2021年12月1日発行 「女に
-
『アンチェルの蝶』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文
『アンチェルの蝶』遠田 潤子 光文社文庫 2014年1月20日初版 大阪の港町で居酒屋を経営する藤
-
『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文
『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25日初版 地獄を
-
『夜明けの音が聞こえる』(大泉芽衣子)_書評という名の読書感想文
『夜明けの音が聞こえる』大泉 芽衣子 集英社 2002年1月10日第一刷 何気なく書棚を眺め
-
『傲慢と善良』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
『傲慢と善良』辻村 深月 朝日新聞出版 2019年3月30日第1刷 婚約者が忽然と
-
『夜をぶっとばせ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文
『夜をぶっとばせ』井上 荒野 朝日文庫 2016年5月30日第一刷 どうしたら夫と結婚せずにす