『風味絶佳』(山田詠美)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『風味絶佳』(山田詠美), 作家別(や行), 山田詠美, 書評(は行)
『風味絶佳』山田 詠美 文芸春秋 2008年5月10日第一刷
70歳の今も真っ赤なカマロを走らせるグランマは、ガスステイションで働く孫の志郎の、ままならぬ恋の行方を静かに見つめる。ときに甘く、ときにほろ苦い、恋と人生の妙味が詰まった小説6粒。恋愛小説の名手がデビュー20年目におくる風味絶佳な文章を、1粒ずつじっくり味わってください。谷崎賞受賞。(文芸春秋BOOKSより)
やはり、読むべき本は選ばなくてはなりません。つい先日はずみで買ったホラー小説が思ったほどには面白くなかったので尚更感じるのかも知れませんが、つまらない本を読むということは、時間を使って尚得るものがないということです。
反対に、読んで得をしたと思えるような本は、いくら時間がかかったとしても必ずその「見返り」があるものです。読んだ時間以上に長い余韻に浸ることができ、しかも忘れない。うまく行けば目の前の景色が一変するとか、見えなかったものが見えてきたりもします。
感じ取ってはいるけれど言葉にできない不確かなニュアンス - そんなものがもののみごとに正しい言葉や文章に置き換えられていたりすると、感心して嬉しくなり、ついでにちょっと得をした気分になります。そういう本に出会いたくて、みんな本を読んでいるんじゃないのでしょうか。
・・・・・・・・・・
山田詠美の『風味絶佳』は、まさにそんな人のために書かれたような小説です。「風味絶佳」とは、あの懐かしい森永ミルクキャラメルのパッケージロゴ「滋養豊富 風味絶佳」から採られたもので、味が非常にすぐれているさまのことを言います。
解説の高橋源一郎氏は、(本当かどうかは分りませんが)、一度に読むのがもったいなくて、毎日1篇ずつ読んだと言い、続けてこんな賛辞を送っています。
この時代に、この国で、こんな小説が書かれているのだ。日本語は、こんなにも素晴らしいことができるのだ。だから、ぼくたちは、まだ大丈夫だ。そう思うと、なんだかたまらない気持ちになって本から目を上げ、窓を眺めた。
ひとつの物語を読み終える度に、本を置き、少しため息をついて、視点が定まらないまま思わずどこかを見つめてしまう。本当に、そんな感じになってしまいます。それぞれの〈滋味深さ〉が後を引いて、しばし放心してしまうのです。
※ 細かな内容の紹介は致しません。と言うか、この小説の見事さを上手く伝える自信がないのです。なまじ半端な解説をして、万が一にも読む気を削いでしまうようなことになりはしまいかと心配で、なら、いっそのこと何も書かないでおこうと決めました。
ですから、これは、肉体労働系の男子を主人公にした「珠玉」の恋愛小説です、とだけ書いておくことにします。
この本を読んでみてください係数 95/100
◆山田 詠美
1959年東京都板橋区生まれ。
明治大学日本文学科中退。
作品 「僕は勉強ができない」「蝶々の纏足・風葬の教室」「ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー」「ジェントルマン」「ベッドタイムアイズ」「A2Z」「色彩の息子」「学問」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数
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