『かわいそうだね?』(綿矢りさ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/14
『かわいそうだね?』(綿矢りさ), 作家別(わ行), 書評(か行), 綿矢りさ
『かわいそうだね?』 綿矢 りさ 文春文庫 2013年12月10日第一刷
あっという間で、綿矢りさもすでに30歳の大人の女性になりました。
デビュー当時は17歳の高校生だったのですよ。マスコミにも大きく取り上げられて、注目を一身に浴びました。
デビュー作で文藝賞を受賞した彼女は、大学へ進学した矢先の19歳で今度は芥川賞を受賞するという快挙です。
そしてこの小説では大江健三郎賞、すべて最年少受賞です。もはや「才能の玉手箱」状態です。
しかし、世間の注目に反して私は長らく綿矢りさの小説を読もうとはしませんでした。
特に理由はありません。敢えて言えば「食わず嫌い」のようなものです。
ある日何気なく眺めていた朝刊の書評欄に、この小説の文庫化の紹介が載りました。それをみて、一度しっかり読んでみるかと思い立ったのです。
物語は、彼氏の隆大が主人公の樹理恵に、昔の彼女であるアキヨを自分の家に居候させることを赦してほしいと頼みこむところから始まります。
ちょっと考えられない状況ですが、隆大の理由は「かわいそうだから」..一瞬非難することを躊躇してしまう、この「人道的」な理由に押し切られ、渋々樹理恵は同居を承諾してしまいます。
しかし、やはり変ではないかと樹理恵の心は乱れに乱れ、周囲に相談したり留守中に忍び込んだりするものの事態が好転することはありません。
そのうち、一見おとなしくてひ弱に見えるアキヨが実は案外図太くて性悪な女にも思えてきたりで、樹理恵の心中はさらに攪乱されるのでした。
・・・・・・・・・・・
特異な三角関係はその後半年に及びやがて終焉を迎えるのですが、その間の樹理恵の心の揺れにこそこの小説の読みどころがあると思います。
直裁な言い方に頼らず、相手の風体や言動を細かく描写することで心理の機微に迫り、人物に確かなイメージを与えるためには相当な技術が必要です。
綿矢りさは、それを見事に実現しています。隆大と初めて出会う場面然り、アキヨと相対する諸々の場面然りです。
観察する眼力、見つめる対象が示す性向を見抜く分析力、それらを豊かな文章にしてみせる稀有な表現力をこの作家はもっているのです。
この小説での樹理恵の到達点は「困っている人はいても、かわいそうな人なんて一人もいない」という発見です。
それは「相手を憐れんでから発動する同情心は、やはりどこか醜い」ことに気付いた彼女の帰結なのです。
冷静で弱音を吐かない樹理恵でしたが、物語の最終局面に及んでついに素の感情が噴出します。
隆大が嫌いで封印していた、かつて馴染んだ故郷の関西弁で思いのたけをぶつけるシーンは圧巻です。
そして若い女性の恋物語として、画期的なラスト。
いよいよ樹理恵は、隆大と別れることを決意します。割り切れず、やりきれない気持ちを満杯胸に込めて吐き出した溜息。。。
「しゃーない」
うまいなぁ、りさはん。
尚、文庫本に収められているのは「かわいそうだね?」と「亜美ちゃんは美人」の二作品です。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆綿矢 りさ
1984年京都府京都市左京区生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文科卒業。
作品 「インストール」「蹴りたい背中」「夢を与える」「勝手にふるえてろ」「ひらいて」「しょうがの味は熱い」「憤死」「大地のゲーム」など
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