『肩ごしの恋人』(唯川恵)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『肩ごしの恋人』(唯川恵), 作家別(や行), 唯川恵, 書評(か行)

『肩ごしの恋人』唯川 恵 集英社文庫 2004年10月25日第一刷

欲しいものは欲しい、結婚3回目、自称鮫科の女「るり子」。仕事も恋にものめりこめないクールな理屈や「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する〈幸せ〉のかたちとは - 。女の本音と日常をリアルに写して痛快。女のダンディズムを描き、圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作。(集英社文庫)

おもしろそうだったので『逢魔』という小説を読んでみました。唯川恵という人の本は初めてで、読むと予想通り - というか、とても上手な文章を書く人だというのがわかります。

『逢魔』というのはそれはそれはエロい小説なのですが、丁寧で、慌てるふうがなく、「わかった上」で書いてあるのがわかります。(名前の感じからして)最初唯川恵という作家は若い人だとばかり思っていたら意外(失礼! )に年配で、ああ、なるほどそういうことかと。

もう一冊、次は直木賞受賞作品『肩ごしの恋人』を読んでみようと思い、日を開けず書店へ行き、この本を買いました。

正直に言うと、最初読み出したときには「これが直木賞? 」と半ばあきれ返るような内容に唖然としました。小説は主人公の一人・るり子の三回目の結婚披露宴の場面から始まるのですが、設定もそうなら、そこで交わされる一々のやり取りが、あまりに軽いのです。

軽すぎて読むに堪えないのですが、そこをぐっと我慢する必要があります。(読んだ私が言うのですからどうかそれを信じて)途中で投げ出さないでください。

るり子の気ままに過ぎる言動にあきれるわ、彼女の親友でもう一人の主人公・萌の、しっかりしてそうで実はそうでもないようなキャラクターに、あなたはきっと苛ついたりすることでしょう。

青木るり子と早坂萌、二人は5歳のときからの幼なじみで、それからずっと、27歳の今日に至るまで無二の親友。二人の性格は、真反対。女の武器を駆使して憚らず、この男と決めたら早々に結婚し、しかしあっという間に離婚するのがるり子。

るり子は美人で、思う以上に男にモテます。彼女もそれをよく知っています。るり子にその気がなくても、男が放っておきません。男を選びに選び、この人と決めて結婚するにはしますが、結婚するとすぐに飽き、別の男が欲しくなります。

萌は、そんなるり子にほとほと呆れ、もはや言うべき言葉がありません。言ったところでるり子が素直に従うはずはなく、言うだけ無駄だと重々承知しています。しかし、かまうことなく頼るるり子を、萌は結局、放っておくことができません。

萌は基本まじめな女性で、まじめ故、柿崎という男を見限ることができません。柿崎からの誘いは無視するくせに、時おり自分の方から連絡を取ります。会えば食事をするかお茶を飲みますが、気分が乗ればセックスもします。柿崎には美人の妻がいます。

継母のせいで家出した崇という少年と出合い、食事をした後、仕方なく部屋に泊めることになります。18歳だとばかり思っていた崇は、実は15歳の少年で、萌はその夜、それを知らずに崇を誘い、セックスしようとします。
・・・・・・・・・
読むほどに、おもしろくなってゆきます。最初はちょっと我慢してください。段々と、唯川恵という作家の目論見が明らかになってゆきます。そして最後は「さすが直木賞! 」だと、きっと思うはずです。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆唯川 恵
1955年石川県金沢市生まれ。
金沢女子短期大学(現金沢学院短期大学)卒業。

作品 「海色の午後」「愛に似たもの」「ベター・ハーフ」「100万回の言い訳」「とける、とろける」「逢魔」他多数

関連記事

『くっすん大黒』(町田康)_書評という名の読書感想文

『くっすん大黒』町田 康 文春文庫 2002年5月10日第一刷 三年前、ふと働くのが嫌になって仕事

記事を読む

『氷の致死量』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『氷の致死量』櫛木 理宇 ハヤカワ文庫 2024年2月25日 発行 『死刑にいたる病』 の著

記事を読む

『近畿地方のある場所について』 (背筋)_書評という名の読書感想文

『近畿地方のある場所について』 背筋 KADOKAWA 2023年8月30日 初版発行

記事を読む

『色彩の息子』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『色彩の息子』山田 詠美 集英社文庫 2014年11月25日初版 唐突ですが、例えば、ほとん

記事を読む

『プラナリア』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『プラナリア』山本 文緒 文春文庫 2020年5月25日第10刷 どうして私はこん

記事を読む

『検事の本懐』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の本懐』柚月 裕子 角川文庫 2018年9月5日3刷 ガレージや車が燃やされ

記事を読む

『湖の女たち』(吉田修一)_書評という名の読書感想文

『湖の女たち』吉田 修一 新潮文庫 2023年8月1日発行 『悪人』 『怒り』 を

記事を読む

『飼い喰い/三匹の豚とわたし』(内澤旬子)_書評という名の読書感想文

『飼い喰い/三匹の豚とわたし』内澤 旬子 角川文庫 2021年2月25日初版 下手な

記事を読む

『家族じまい』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『家族じまい』桜木 紫乃 集英社 2020年11月11日第6刷 家族はいったいいつ

記事を読む

『さみしくなったら名前を呼んで』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『さみしくなったら名前を呼んで』山内 マリコ 幻冬舎 2014年9月20日第一刷 いつになれば、私

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑