『騙る』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『騙る』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(か行), 黒川博行
『騙る』黒川 博行 文藝春秋 2020年12月15日第1刷

大物彫刻家が遺した縮小模型、素人の蔵に眠っていた重文級の屏風、デッドストックのヴィンテージ・アロハ・・・・・・・。
こいつは金になる - 。
古美術業界の掘り出し物にたかる、欲深き人びと。
だましだまされ、最後に笑うのは誰?
著者の十八番、傑作美術ミステリー連作集! (文藝春秋BOOKSより)
目次
マケット
上代裂 (じょうだいぎれ)
ヒタチヤ ロイヤル
乾隆御墨 (けんりゅうぎょぼく)
栖芳写し (せいほううつし)
鶯文六花形盒子 (うぐいすもんろつかがたごうす)
どちらかといえば私は長編が好きなのですが、合間合間に刊行されるこの手の短編集を見逃すわけにはいきません。丁々発止でやり取りされる、いかにもな関西弁。スピーディーな話の展開、(百も承知であるにもかかわらず、あっと言わせる)予期せぬオチに、今回もしてやられました。
クスッと笑い、スカッとして、それで終わるわけではありません。古美術品やヴィンテージものについての知識はもとより、業界に蔓延る悪しき慣習と顧客を騙す巧妙な手口の数々は、為になります。
つねではありますが、読みたいのに読むのがもったいない。残りページが少なくなるのが忍びない。このままずっと読み続けていたい。そんな気持ちになりました。
中で私のおススメは、第四話 「乾隆御墨」 です。
※話はまるで違うのですが、ネットでこんな記事を見つけました。これは、この本にも言えることです。そして、黒川ファンなら誰もが大なり小なり感じていることだと思います。本人曰く、
わたしの小説はものを食う場面が多いらしい。インタビューを受けるときは、たいてい、「おいしそうですね、モデルになったお店はあるんですか」 と訊 (き) かれる。「いや、モデルなんかないんですわ。登場人物にもね」
そう、なにもかも想像なのだ。店の造りから、出される料理、板前、仲居さんの着物の柄まで。
それではなぜ、主人公たちは頻繁にものを食うのか - 。(好書好日/朝日新聞2017年04月15日掲載の記事から)
空いた時間に、飯を食う。うどんや蕎麦を啜る。後で決まって、喫茶店に入る。確かに多くの “食べたり、飲んだり” する場面が登場します。それが全部 「おいしそう」 だということ。そんなところにもぜひ注目して読んでください。
尚、勿論上の記事には続きがあります。答えはどうぞご自身で確かめてみてください。
この本を読んでみてください係数 90/100

◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。
作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「ドアの向こうに」「迅雷」「離れ折紙」「悪果」「疫病神」「国境」「螻蛄」「文福茶釜」「煙霞」「暗礁」「破門」「泥濘」「後妻業」「勁草」他多数
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