『死者のための音楽』(山白朝子)_書評という名の読書感想文
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『死者のための音楽』(山白朝子), 作家別(や行), 山白朝子, 書評(さ行)
『死者のための音楽』山白 朝子 角川文庫 2013年11月25日初版
[目次]
教わってもいない経を唱え、行ったこともない土地を語る幼い息子 ・・・ 長い旅のはじまり
逃げ込んだ井戸の底で出会った美しい女 ・・・ 井戸を下りる
生き物を黄金に変えてしまう廃液をたれ流す工場 ・・・ 黄金工場
仏師に弟子入りした身元不明の少女 ・・・ 未完の像
人々を食い荒らす巨大な鬼と、村に暮らす姉弟 ・・・ 鬼物語
父を亡くした少女と巨鳥の奇妙な生活 ・・・ 鳥とファフロッキーズ現象について
耳の悪い母が魅せられた、死の間際に聞こえてくる美しい音楽 ・・・ 死者のための音楽
人との絆を描いた、怪しくも切ない7篇を収録。怪談作家、山白朝子が描く愛の物語。(角川文庫)
解説 (東雅夫/文芸評論家・『幽』 編集長) より
本書 『死者のための音楽』 は、2004年に彗星のごとく怪談文芸シーンに登場した謎の作家・山白朝子の第一短篇集であり、収録作は表題作を除いて、すべて怪談専門誌 『幽』 (メディアファクトリー/株式会社KADOKAWA発行) に掲載された作品である。
(途中を大きく割愛)
かくして世に出ることになったのが、本書に収められた一連の作品である。
物語の設定は現代だったり、いつの時代とも定かではなかったり、さまざまだけれど、共通しているのはそれが、われわれ日本人にとって、たいそう懐かしく感じられる世界であることだろう。陰惨な物語、哀切な物語、そして何より (単行本の帯文で、乙一氏がいみじくも指摘されていたとおり) 愛をめぐる物語 - いま最も新しい怪談のスタイルを提示した本書は、同時に、われわれにとって怪談とは何だったのか、その根幹に関わる情念のスタイルを提示した書物でもあるのだと、私は思う。
死んだ子供が唱えていたお経。その子はだれからも教わっていない。生まれたときから知っている。
何ひとつ見えない真っ暗闇の中。井戸の底の、そのまた底にある、だれも知らない世界。
私の子供たちよ。声の聞こえるほうにおいで。そしてお父さんの話を聞くのだ。今から、お父さんの若い頃の話をしてあげよう。話を聞き終えたとき、きみたちは、自分がなぜここにいるのかを知るだろう。
少女が訪ねてきたとき、師匠は外に出ていた。私は土間で鑿を研いでいたのだが、その手を休めて玄関先にむかった。少女の年齢は十四か十五といったところだろう。身なりはみすぼらしく、服のところどころに破れた箇所があった。しかし目は大人びており、頬から顎までの線が美しかった。
「ここに弟子入りしたいのだが、女でも仏師になれるのか? 」
少女の声はぶっきらぼうだった。
「私はこれまでに何人もの人を殺してきた。近いうちに捕まって縛り首にされるだろう。その前に自分で仏像を彫って残しておきたいんだ」
冗談を言っているのだと思った。
長い旅のはじまり
井戸を下りる
未完の像 特に印象に残ったのがこの三篇。ぞくっとし、愛を感じてください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆山白 朝子 (乙一の別ペンネーム)
1978年福岡県田主丸町 (現・久留米市) 生まれ。
豊橋技術科学大学工学部エコロジー工学課程卒業。
作品 2005年、怪談専門誌 「幽」 でデビュー。著書に 「エムブリヲ奇譚」「私のサイクロプス」「私の頭が正常であったなら」 がある。
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