『せんせい。』(重松清)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/06
『せんせい。』(重松清), 作家別(さ行), 書評(さ行), 重松清
『せんせい。』重松 清 新潮文庫 2023年3月25日13刷
最泣王・重松清が描く教師と生徒の絆。
先生、あのときは、すみませんでした - 。授業そっちのけで自分の夢を追いかけた先生。一人の生徒を好きになれなかった先生。厳しくすることでしか教え子に向き合えなかった先生。そして、そんな彼らに反発した生徒たち。けれど、オトナになればきっとわかる、あのとき、先生が教えてくれたこと。ほろ苦さとともに深く胸に染みいる、教師と生徒をめぐる物語。『気をつけ、礼。』 改題。(新潮文庫)
[目次]
・白髪のニール
・ドロップスは神さまの涙
・マティスのビンタ
・にんじん
・泣くな赤鬼
・気をつけ、礼。
あたりまえですが、6つの物語それぞれに登場する先生はみな大人で、”大人ならではの” 事情を抱えて生きています。中には 「先生になりたくてなったわけではない」 先生や、なってはみたけれど思い通りに事が進まず、仕方なく 「先生のふりをしている」 先生だっているに違いありません。
それでもやっぱり先生は 「せんせい」 で、あの日言われた一言が今になって効いてくる - 大人になり、当時の 「せんせい」 の歳を越えてはじめて気付くことがあります。「せんせい」 が言ったこと・したことは、おそらく時の 「せんせい」 の精一杯だったんだろうと。
僕は教師という職業が大好きで、現実に教壇に立っていらっしゃるすべての皆さんに、ありったけの敬意と共感を示したいと、いつも思っている。けれど、僕は同時に、教師とうまくやっていけない生徒のことも大好きで、もしも彼らが落ち込んでいるのなら 「先生なんて放っときゃいいんだよ」 と肩を叩いてやりたいと、いつも思っている。矛盾である。(「文庫版のためのあとがき」 より)
小学生や中学生に、大人の事情なんかはわかるはずがありません。先生の苦労や悩みも、好きなことも嫌いなことも。ほんとうの心がどこにあるかがわかりません。
四話までは泣かずにいたのですが、五話の最後で少し泣きました。強く印象に残ったのは、なぜか、最終話 「気をつけ、礼。」 でした。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。
作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」「青い鳥」他多数
関連記事
-
『家族じまい』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『家族じまい』桜木 紫乃 集英社 2020年11月11日第6刷 家族はいったいいつ
-
『侵蝕 壊される家族の記録』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文
『侵蝕 壊される家族の記録』櫛木 理宇 角川ホラー文庫 2016年6月25日初版 ねえ。 このう
-
『死者の奢り・飼育』(大江健三郎)_書評という名の読書感想文
『死者の奢り・飼育』大江 健三郎 新潮文庫 2022年11月25日84刷 23歳と
-
『JR高田馬場駅戸山口』(柳美里)_書評という名の読書感想文
『JR高田馬場駅戸山口』柳 美里 河出文庫 2021年3月20日新装版初版 夫は単
-
『幸せになる百通りの方法』(荻原浩)_書評という名の読書感想文
『幸せになる百通りの方法』荻原 浩 文春文庫 2014年8月10日第一刷 荻原浩の十八番、現代社
-
『人面瘡探偵』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『人面瘡探偵』中山 七里 小学館文庫 2022年2月9日初版第1刷 天才。5ページ
-
『さよなら、田中さん』(鈴木るりか)_書評という名の読書感想文
『さよなら、田中さん』鈴木 るりか 小学館 2017年10月17日初版 花実はじつにあっけらかん
-
『月蝕楽園』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文
『月蝕楽園』朱川 湊人 双葉文庫 2017年8月9日第一刷 癌で入院している会社の後輩。上司から容
-
『ナイフ』(重松清)_書評という名の読書感想文
『ナイフ』重松 清 新潮社 1997年11月20日発行 「悪いんだけど、死んでくれない? 」あ
-
『沙林 偽りの王国 (上下) 』 (帚木蓬生)_書評という名の読書感想文
『沙林 偽りの王国 (上下) 』 帚木 蓬生 新潮文庫 2023年9月1日発行 医