『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(椰月美智子)_書評という名の読書感想文
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『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(椰月美智子), 作家別(や行), 書評(ま行), 椰月美智子
『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』椰月 美智子 双葉文庫 2023年4月15日第1刷発行
11歳と85歳。おれたちが友達だってことを、みんなに知ってもらいたい。第69回小学館児童出版文化賞受賞作。
小6の拓人、忍、宇太佳はスケボーが大好きな仲良し三人組。新たに見つけた格好のスケボー練習場所で出会ったのが神社の管理人、田中さんだ。その日から、11歳と85歳の交流が始まった。いつも穏やかに話を聞いてくれる 「マジで菩薩レベル」 の優しい田中さん。だが田中さんは拓人たちと同じ11歳の頃、家族も家も失っていた。それを知った三人組は、ある行動を起こす - 。解説・森絵都 (双葉文庫)
時々に、私はこの手の本が無性に読みたくなります。たいていは一冊読めば事足りるのですが、今回は珍しく重松清の 『せんせい。』 と二冊続けて読みました。何なのでしょう? 何が私を、そんな気持ちにさせるのでしょう。
二冊の中身をざっくり言うと、一方に少年を、もう一方に少年がたまたま関わり合った大人を据えて、その後に続く二人の交流についてが描かれています。
『せんせい。』 では - 必ずしも良好とは言えなかった関係の先生と生徒のその後が、本作では - 小学6年生の少年と、少年がたまたま知り合った85歳の老人とのその後が、特段目覚ましい何がが起こるわけではない中で、ささやかではありますが、未来に夢を託して終わります。
タイトルにある 「おれ」 とは主人公の拓人で、スケボー大好きな小学六年生。昔は拓人と同い年だった 「田中さん」 は現在八十五歳で、神社の管理人として静かに暮らしている。七十歳以上もの年齢差があるこの二人がひょんなことから知り合い、物語は始まる。
小学生とおじいさんの交流といえば、かつて椰月さんが野間児童文芸賞と坪田譲治文学賞をダブル受賞した 『しずかな日々』 を彷彿とするけれど、年齢差を埋めようとするのではなく、むしろ世代の開きをおもしろがるような両者の軽やかな向き合い方は本書にも共通している。とても自然に、一歩一歩、拓人と田中さんはともだちになっていく。
拓人が田中さんを好きになるきっかけが、私はとても好きだ。骨折した田中さんの身のまわりのことを手伝うことになった拓人、忍、宇太佳の三人を、田中さんがお茶ではなくコーラでもてなした瞬間、〈田中さん、ナイスだ〉 と拓人は思う。
さらに、おまんじゅうやせんべいではなくチョコレートやスナック菓子が出てくると、〈やっぱりナイスだ、田中さん〉 とますます好意を深める。なんて説得力のある友情の芽生えだろう。
*
しかし、本書の中で描かれているのは友情の光ばかりではない。影もまたそこにある。田中さんの過去を粉々にした戦争だ。七十四年前 - 田中さんが拓人と同い年だったころ、彼らが暮らす地域で空襲があり、二十三人の市民が亡くなった。(中略) その二十三人の中に田中さんの母親と妹も含まれていたことを知った瞬間、三人の表情は一転する。じつに正直なリアクションだと思う。(解説より抜粋)
田中さんの来し方を想像することは、自分の人生を顧みることでもありました。
少年の日を懐かしみ、あわせて大人であり続けることの苦悩や葛藤に共感しつつ、決まって思うことがあります。では、自分の人生はどうだったのだろうと。高慢ちきで、(何の根拠もないくせに) 自分は人とはちがうと思っていなかっただろうか。今になり、少しは人に優しくなれただろうかと。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆椰月 美智子
1970年神奈川県小田原市生まれ。
短大卒業後は会社勤め (実家の介護関係の仕事) をしていた。2002年、作家デビュー。
作品 「十二歳」「しずかな日々」「みきわめ検定」「枝付き干し葡萄とワイングラス」「明日の食卓」「るり姉」「14歳の水平線」他多数
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