『いつか深い穴に落ちるまで』(山野辺太郎)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『いつか深い穴に落ちるまで』(山野辺太郎), 作家別(や行), 山野辺太郎, 書評(あ行)
『いつか深い穴に落ちるまで』山野辺 太郎 河出書房新社 2018年11月30日初版
戦後から現在まで続く 「秘密プロジェクト」 があった。
発案者は、運輸省の若手官僚・山本清晴。
敗戦から数年たったある時、新橋の闇市でカストリを飲みながら彼は思いつく。「底のない穴を空けよう、そしてそれを国の新事業にしよう」。かくして 「日本-ブラジル間・直線ルート開発計画」 が 「温泉を掘る」 ための技術によって、始動した。その意志を引き継いだのは大手建設会社の子会社の広報係・鈴木一夫。彼は来たるべき事業公開の際のプレスリリースを記すために、この謎めいた事業の存在理由について調査を開始する。
ポーランドからの諜報員、作業員としてやってくる日系移民やアジアからの技能実習生、ディズニーランドで待ち合わせた海外の要人、ブラジルの広報係・ルイーザへの想い、そしてついに穴が開通したとき、鈴木は・・・・・・・。
「なぜ、そんな穴を? 」
「だって、近道じゃありませんか」様々な人間、国の思惑が交差する中、日本社会のシステムを戦後史とともに真顔のユーモアで描きつくす、大ボラサラリーマン小説の爆誕!! (河出書房新社他)
第55回文藝賞受賞作
途中何度となく読み返し、そして考えました。私は今、何を読まされているのだろうと。
読むほどに、それが 「本気」 かどうかがわかりません。およそありそうもない話に違いないのですが、ふざけたところが微塵もありません。事の当事者たちは、至って真面目なのです。
真面目が過ぎて生真面目故に、それが段々 「本気」 に思えてくるのは、単に私の錯覚なのでしょうか。
それにつけても、鈴木一夫はエラい!! これだけは断言できます。最後にした彼の決断と行動は、長年に渡り耐え難きを耐え、忍び難きを忍んだ故の 「覚悟」 だったといえます。誰が彼を笑えるのでしょう。彼のしたことを、誰ができるというのでしょう。
※一つだけ苦言をいうと - 何故こんな表紙にしたのでしょう? わかるっちゃわかるのですが、これでは読み手はまるで違う話を想像するやも知れません。もったいない。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆山野辺 太郎
1975年福島県生まれ、宮城県育ち。
東京大学文学部卒業後、同大学院人文社会系研究科修士課程修了。
作品 本作で第55回文藝賞を受賞。
関連記事
-
-
『天使が怪獣になる前に』(山田悠介)_書評という名の読書感想文
『天使が怪獣になる前に』山田 悠介 文芸社文庫 2015年2月15日初版 【文庫】 天使が怪獣
-
-
『悪と仮面のルール』(中村文則)_書評という名の読書感想文
『悪と仮面のルール』中村 文則 講談社文庫 2013年10月16日第一刷 悪と仮面のルール (
-
-
『夫の骨』(矢樹純)_書評という名の読書感想文
『夫の骨』矢樹 純 祥伝社文庫 2019年4月20日初版 夫の骨 (祥伝社文庫) 昨年
-
-
『凍てつく太陽』(葉真中顕)_書評という名の読書感想文
『凍てつく太陽』葉真中 顕 幻冬舎 2019年1月31日第2版 凍てつく太陽 昭和二十
-
-
『ボトルネック』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文
『ボトルネック』米澤 穂信 新潮文庫 2009年10月1日発行 ボトルネック (新潮文庫)
-
-
『夫の墓には入りません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文
『夫の墓には入りません』垣谷 美雨 中公文庫 2019年1月25日初版 夫の墓には入りません
-
-
『アカペラ/新装版』(山本文緒)_書評という名の読書感想文
『アカペラ/新装版』山本 文緒 新潮文庫 2020年9月30日5刷 人生がきらきらし
-
-
『阿弥陀堂だより』(南木佳士)_書評という名の読書感想文
『阿弥陀堂だより』南木 佳士 文春文庫 2002年8月10日第一刷 阿弥陀堂だより (文春文庫
-
-
『選んだ孤独はよい孤独』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
『選んだ孤独はよい孤独』山内 マリコ 河出書房新社 2018年5月30日初版 選んだ孤独はよい
-
-
『子供の領分』(吉行淳之介)_書評という名の読書感想文
『子供の領分』吉行 淳之介 番町書房 1975年12月1日初版 子供の領分 (集英社文庫) 吉行