『劇団42歳♂』(田中兆子)_書評という名の読書感想文
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『劇団42歳♂』(田中兆子), 作家別(た行), 書評(か行), 田中兆子
『劇団42歳♂』田中 兆子 双葉社 2017年7月23日第一刷
大学で劇団を組んでいた5人の仲間。今は違う道を歩む彼らだが、卒業後20年の節目に「劇団42歳♂」を結成した。一日限りの公演に向けて「オセロー」に挑むが、各自の抱える事情もあり、稽古はなかなか捗らない。果たして幕は無事に上がるのか? そして彼らが直面する問題の行く末は? 迷える不惑の男たちにエールを贈る連作短編集。(アマゾン内容紹介より)
【本読みのプロからも絶賛! 】(榎本正樹氏/「小説現代」2017年9月号)
特筆すべきは『オセロー』の解釈小説として構成される趣向である。特に夫オセローの嫉妬によって殺される妻デズデモーナの謎めいた今際の言葉をめぐる解釈は、物語の牽引力となる。さらに役を演じる一人ひとりの実人生に、役柄自体が深く浸潤してくる。こうした演劇的な仕掛けから立ち上がってくるのは、四十代の男性の生き方をめぐる問いだ。劇団をサポートする唯一の女性が、男性共同体の手厳しい観察者となる設定に、田中ならではの着眼の妙が光る。理不尽な言葉にキレた仲間の失踪により上演の危機に陥った男たちの行く末はいかに・・・。
帯にデカデカとあるのですが、とにもかくにも 男の友情はややこしい。めんどくさくて、わかりにくい - ということが書いてあります。おまけに、シェイクスピアのことが少しわかって、ちょっと得した気分になります。
文藝春秋2018年1月号(私はYAHOOニュースの記事で知ったのですが)、角田光代さんが20歳の自分に読ませたい「わたしのベスト3 」 の中の一冊。角田さんがこの作品を選んだ理由は以下の通り。
『劇団42歳♂』 の登場人物たちは、みんな四十代だけれど、学生時代の演劇仲間だ。学生時代の私も演劇サークルに属していたから、倍の年齢を重ねてなお演劇熱の残っている、この小説の登場人物たちのことをよく理解しただろう。なぜ自分が大勢で創る演劇をやろうと思ったのかも再確認するだろう。そして年齢を重ねることが大人になることではないと、この小説を読んで思うのではないか。
年齢を重ねるだけでは大人にはなれない。年齢を重ねたからといって悩みや鬱屈が消えるわけではない。そのことを知っても、この小説は、四十二歳になることに決して失望させないと思うのだ。
どうです? 男性に限らず、女性にも(いや、むしろ女性にこそと言うべきか)ぜひ読んで欲しいものです。
田中兆子さんは、私の大のお気に入りです。よければ彼女のデビュー作 『甘いお菓子は食べません』 を読んでみてください。きっと、もっと好きになります。
※ちなみに、角田さんおススメのあと二冊はというと、
『望むのは』 古谷田 奈月/新潮社
『無敵の二人』 中村 航/文藝春秋 です。こちらも、ぜひぜひ読んでみてください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆田中 兆子
1964年富山県生まれ。8年間のOL生活ののち、専業主婦に。2011年「べしみ」で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。同作を収録した『甘いお菓子は食べません』が初の単行本となる。本書は受賞後の第一作。
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