『トリニティ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/07
『トリニティ』(窪美澄), 作家別(か行), 書評(た行), 窪美澄
『トリニティ』窪 美澄 新潮文庫 2021年9月1日発行
織田作之助賞受賞、直木賞候補
今を生きるすべての女性に捧ぐ 著者の新たな代表作仕事、結婚、男、子ども。私はすべて手に入れたい。欲張りだと謗られても - 。1960年代、出版社で出会った三人の女。ライターの登紀子は、時代を牽引する雑誌で活躍。イラストレーターの妙子は、才能を見出され若くして売れっ子に。そして編集雑務の鈴子は、結婚を機に専業主婦となる。変わりゆく時代の中で、彼女たちが得たもの、失ったもの、そして未来につなぐものとは。渾身の長編小説。(新潮文庫)
トリニティ (trinity)
三重、三組、三つの部分。定冠詞が付いた大文字で始まる the Trinity はキリスト教における三位一体を意味する。
主人公は、1964年、創刊されたばかりの雑誌の編集部で出会った三人の女。ひとりはライター、ひとりはイラストレーター、もうひとりは編集雑務を担当する出版社社員である。その雑誌は若い男性向けの週刊誌で、新聞社や文芸系の出版社による従来の週刊誌とは一線を画す、ビジュアル重視の新しい雑誌だった。小説の中では潮汐出版の 「潮汐ライズ」 という雑誌になっているが、ファッションはもちろん、先端のカルチャーから社会問題までを扱い、三島由紀夫や野坂昭如も寄稿した雑誌といえば、多くの人は、ああ、あの雑誌かと思い当たるだろう。
イラストレーターは、二十二歳の若さでこの雑誌の表紙を描き、時代の寵児になった妙子。ライターは、売れっ子のフリーランサーで、同じ出版社がその後に創刊するファッション誌の文体を生み出すことになる登紀子。そして、高卒で入社し、当然のように仕事より結婚を選ぶ鈴子。まったく異なる能力と価値観を持った三人が、当時の先端メディアだった雑誌の世界で、つかの間のかかわりをもつ。(解説より)
出自もその後の人生もまるで異なる三人は、その時代を象徴するある出来事で、偶然にも、思いもしなかった連帯感を共有するに至ります。案外それは強固なもので、職場を離れ、歳を取っても途絶えることがありません。
三人の中で妙子だけが仕事と結婚と子どものすべてを手に入れた。得たものを手放さないために死ぬほど努力した彼女は、次第に周囲から煙たがられ、トラブルメーカーと言われるようになる。そして孤独な死を迎えるのだ。ライターとして一時代を画した登紀子も、かつての知人に小金を借りて回る老女となる。経済的にも恵まれた穏やかな老後を送っているのは、専業主婦となった鈴子だけである。
仕事を選んだ女は、その報いを受けたということだろうか。いや、そうではない。冒頭に老女として登場する三人の、そこに至るまでの過去が語られていく中で、読者が立ち会うのは、それぞれの人生のきらめくような瞬間だ。それは必ずしも幸福な瞬間ではない。だがそこには、選ぶという行為 (それは選ばなかったものを 「捨てる」 行為でもある) のもつ、痛みを伴う美しさがある。(解説の続き)
三人の中で一番凡庸だった鈴子が、結果として一番穏やかな老後を生きている - 妙子は死に、登紀子は今まさに死のうとしています。
但し、著者が読ませたいのは、そこではありません。読むべきは、三人三様に、そこに至るまでにした 「取捨選択」 ではないかと。妙子がした血の滲むような努力。登紀子の密かな決意。それらは時代にあって何より得難く、特に胸に迫って美しい。
各々の人生を通し、後の時代に生きるわれわれが学ぶべきこととは、いったい何なのでしょう? 今を生きるすべての女子に尋ねてみたい。貴女は誰の人生を善しとしますか? 鈴子ですか。妙子ですか。それとも、登紀子でしょうか。
※読み終えた時、「これが直木賞だろう」 と思いました。そのとき受賞したのが大島真寿美の 『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』 で、候補作の中には朝倉かすみの 『平場の月』 がありました。全部読みました。全部直木賞でいいと思います。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆窪 美澄
1965年東京都稲城市生まれ。
カリタス女子中学高等学校卒業。短大中退。
作品 「晴天の迷いクジラ」「クラウドクラスターを愛する方法」「アニバーサリー」「雨のなまえ」「ふがいない僕は空を見た」「さよなら、ニルヴァーナ」「アカガミ」他多数
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