『老警』(古野まほろ)_書評という名の読書感想文

『老警』古野 まほろ 角川文庫 2022年8月25日初版発行

:続々重版監殺』 『女警の著者、最新文庫33歳引きこもり男が起こした殺人の真相と、彼の抱いた絶望とは?

A県の小学校で起きた前代未聞の無差別大量殺人。犯行後、犯人の男は居合わせた警官から奪った拳銃で自殺する。現役警官である男の父もまた、直後に自死。県警本部は混乱の坩堝と化した。謎多きこの事件の解明に乗り出したキャリア女警の由香里は、捜査の末、驚きの真実を見つける。ベテラン警察官達の矜持と保身、引きこもりとその家族の実情 - 数々の問題提起を孕んだ社会派警察ミステリー。(角川文庫)

話の始まりからは、予想もしない展開が待ち受けています。長い人生の果てに、彼らがそうまでして護りたかったものの正体とは一体何だったのか? 何が、彼らをそこまで追い詰めたのでしょう。

『老警』 は、日本のどこにでもあるようなA県で、長期間自宅にひきこもっているある警察官の息子、伊勢鉄雄 (33歳) の近況から話が始まる。

少し長い序章ではこの鉄雄の生育歴や病歴、妄想の質、現状、わずかな生活の変化が語られる。大手出版社からデビューしたプロの作家を自任する伊勢鉄雄は、何もかもが思い通りにならないことにいらだっていた。担当編集者はつかまらず、近くの小学校は運動会の練習で騒音をまき散らす。父親が作る朝食は相変わらず母さんのようにはならない。ブチ切れて・・・・・・・捨て台詞を吐く。

「流行りの拡大自殺とか、やらかしちゃうかもだからねえ、そうだろ? 」
高卒のたたき上げである父親の伊勢鉄造 (59歳) は息子の扱いに悩んでいた。中学受験が引き金となり、母親への家庭内暴力は母を遠ざけることで収め、息子が関与したのではないかと疑える付近で起こった事件は立場をつかって “揉み消した”。正式な診断名にも耳をふさぎ、本格的な “ひきこもり” が始まった。

同時にA県警察から任命された 〈少年警察ボランティア〉 冬木雅春 (65歳) は独白する。東大法学部を卒業し “一流企業” でそれなりの地位に就いた人間が、娘の挫折で地元に戻ってこざるをえなかった。

そしてもう一人の事件の当事者、その圏内を管轄する駐在所長である津村茂警部補 (59歳) のひととなりが紹介され、市役所から津村警部補へ自傷他害の可能性のある相談者の対応が持ち込まれる。

これらの事案がひとつでも解決できていたら、A県五日市市・五日市小学校での惨劇は防げていただろう。(解説より)

その結果、A県警にとって例のない “超弩級” の事件が起こります。それは、教師、保護者、児童を含む大量の無差別殺傷事件でした。但し、この小説の行き着く先は、ここではありません。むしろ、話はここからが本番です。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆古野 まほろ
東京大学法学部卒業。リヨン第3大学法学部第3段階専攻修士課程修了。警察庁Ⅰ種警察官として交番、警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務の後、警察大学校主任教授にて退官。

作品 「天使のはしたなき果実」で第35回メフィスト賞を受賞しデビュー。他に 「監殺」「女警」「新任巡査」「新任刑事」「R.E.D.警察庁特殊防犯対策官室」シリーズ、他

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