『震える天秤』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『震える天秤』染井 為人 角川文庫 2022年8月25日初版発行

10万部突破悪い夏の著者が仕掛ける、新時代の社会派ミステリ! 読者メーター 読みたい本ランキング第1位

高齢男性の運転する軽トラックがコンビニに突っ込み、店員を轢き殺す大事件が発生。アクセルとブレーキを踏み違えたという加害者の老人は認知症を疑われている。事故を取材するライターの俊藤律は、加害者が住んでいた奇妙な風習の残る村・埜ヶ谷村を訪ねるが・・・・・・・。「この村はおかしい。皆で何かを隠している」。関係者や村の過去を探る取材の末に、律は衝撃の真相に辿り着く - 。横溝賞出身作家が放つ迫真の社会派ミステリ。(角川文庫)

主人公は、37歳のフリージャーナリスト・俊藤律。彼は隔週誌の編集長から、福井県で起きた交通事故について取材依頼を受ける。落井正三という86歳の老人が車を運転中にコンビニエンスストアに突っ込み、店長の石橋昇流を死亡させたという事故だ。

現地に到着した律は、昇流の父親で事故現場となったコンビニのオーナーの石橋宏、コンビニ本社の店舗担当SVの酒井康介、コンビニ店員の須田由美子ら関係者に取材する。

宏は事故による金銭的損害ばかり気にしており、とても父親の態度とは思えない。おまけに、律の記事の方向性にまで勝手に口を出し、誓約書を交わすことすら要求してくる。また、関係者への取材を重ねるうちに、昇流は店長としての働きぶりが極めてルーズで、人柄も褒められたものではなかったという事実が浮かび上がってきた。

当初、律は編集長の指示通り、高齢者の運転問題という方向性で取材を進めようとする。この観点からまとめるのであれば、被害者がどのような人物であろうと、記事の方向性に何か影響があるわけではない。しかし、関係者から話を聞くにつれて、コンビニの補償問題、被害者や遺族の裏の顔といった、記事の題材として興味深そうな話題が次々と現れる。そして、加害者である落井正三について調べるうちに、律の中で疑念が濃くなってゆく。

落井は、半年ほど前に山崩れの被害に遭い、間もなく廃村が決定している埜ヶ谷村の出身である。その埜ヶ谷村を訪れた律は、村長の國木田保仁、村役場職員の岩本和夫らに取材するが、彼らは落井が認知症だということを強調し、その点に律が疑問を投げかけた途端、不自然なほど過剰な反応を見せる。

果たして、この事故は見かけ通りのものなのか。そして、埜ヶ谷村の閉鎖的な風土は真相と関係しているのだろうか・・・・・・・。(以上解説より抜粋)

律は、8年前のある事件について、自分がした取材とその結果招いた悲劇の結末を、今も忘れることができません。そんな彼が今回取材の果てに行き着いたのは 「ジャーナリストとしての義務と、人間としての良心を載せた天秤をどちらに傾けるのが正しいか」 という、彼にとってある種究極の問いでした。律は激しく動揺し、繰り返し煩悶します。

※わざわざ 「横溝賞出身作家が放つ迫真の社会派ミステリ」 とあるのは、閉ざされた集落故の、限りなく濃密な人と人との関係を言いたかったのでしょう。なるほどそれらしくはありますが、やや誇張し過ぎの感が否めません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆染井 為人
1983年千葉県生まれ。

作品 2017年、『悪い夏』 で第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビュー。他に「正体」「正義の申し子」等

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