『緋色の稜線』(あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/07 『緋色の稜線』(あさのあつこ), あさのあつこ, 作家別(あ行), 書評(は行)

『緋色の稜線』あさの あつこ 角川文庫 2020年11月25日初版

※本書は、2012年9月に講談社より刊行された単行本 『白兎1 透明な旅路と』 を加筆修正し、改題のうえ文庫化したものです。

魂のなかに生き続ける懐かしい故郷への探索。生の中で息づく温かな悲歌だ。人を殺して逃げる男が出会った、少年と傷ついた幼女。幻惑のサスペンス・ミステリ!

一時の絶望に駆られ、生きずりの女を絞殺した吉行明敬。殺人現場から離れようと自動車で山道を走る途中、彼は古臭いおかっぱ頭の幼女を連れた、白兎と名乗る不思議な少年に出会う。「お家に帰る」 という幼女と、付き添いだという少年。やむをえず2人を車に乗せ山間の温泉宿にたどり着くが、吉行は白兎たちの不可思議な言動に混乱していく。(角川文庫)

遠い昔に読んだ天童荒太の 『悼む人』 を思い出しました。これから紹介するのは、「白兎」 と名乗る少年がする、時空を超えた四つのをめぐる物語です。時を選ばず、彼は 「真っ当に」 死にたいと願う人のところへ現れます。

四冊共に講談社から刊行された単行本が、加筆修正され改題されて新たに角川文庫より発行されました。順に言いますと、

第一作 『緋色の稜線』 -  旧題 『白兎 1 透明な旅路と』
第二作 『藤色の記憶』 -  旧題 『白兎 2 地に埋もれて』
第三作 『藍色の夜明け』 - 旧題 『白兎 3 蜃楼の主』
第四作 『白磁の薔薇』 -  旧題 『白兎 4 天国という名の組曲』

となります。

実は、私は第三作の 『藍色の夜明け』 をたまたま書店で見つけて、最初に読みました。(すでにブログにアップしてあります) これが、予想以上に面白かった。あり得ない世界のことが書いてあるのに、気にもならずにするっと読めました。

おそらくそれは、「白兎」 と名乗る少年 (の非現実さ) とは対照的に、彼が関わる人物の過去や人生に並々ならぬリアルを感じたからでしょう。主役の誰もがどこにもいそうな人間で、皆が心に傷を抱えています。哀しい過去を経験しています。

はじめ彼ら彼女らは、生きているのか死んでいるのか定かではありません。あるいは、死に逝く途中であるような・・・・・・・

突然目の前に現れた白兎という少年は、神か仏か、それとも生死の狭間を往来する御霊の化身のような存在なのでしょうか。彼は死に逝く者に寄り添い、死者が死者らしく死ねるよう、その時までを見届けようとしています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆あさの あつこ
1954年岡山県英田郡美作町(現:美作市)湯郷生まれ。
青山学院大学文学部卒業。

作品 「ほたる館物語」「バッテリー」「バッテリーⅡ」「たまゆら」他多数

関連記事

『寡黙な死骸 みだらな弔い』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『寡黙な死骸 みだらな弔い』小川 洋子 中公文庫 2003年3月25日初版 息子を亡くした女が洋菓

記事を読む

『地先』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文

『地先』乙川 優三郎 徳間文庫 2022年12月15日初刷 通り過ぎた歳月。その重

記事を読む

『本心』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文

『本心』平野 啓一郎 文春文庫 2023年12月10日 第1刷 『マチネの終わりに』 『ある

記事を読む

『母と死体を埋めに行く』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『母と死体を埋めに行く』大石 圭 角川ホラー文庫 2021年10月25日初版 美し

記事を読む

『AX アックス』(伊坂幸太郎)_恐妻家の父に殺し屋は似合わない

『AX アックス』伊坂 幸太郎 角川文庫 2020年2月20日初版 最強の殺し屋は

記事を読む

『結婚』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『結婚』井上 荒野 角川文庫 2016年1月25日初版 東京の事務員・亜佐子、佐世保の歌手・マ

記事を読む

『不愉快な本の続編』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『不愉快な本の続編』絲山 秋子 新潮文庫 2015年6月1日発行 性懲りもなくまたややこしい

記事を読む

『あなたならどうする』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あなたならどうする』井上 荒野 文春文庫 2020年7月10日第1刷 病院で出会

記事を読む

『獅子吼』(浅田次郎)_書評という名の読書感想文

『獅子吼』浅田 次郎 文春文庫 2018年12月10日第一刷 けっして瞋(いか)る

記事を読む

『夜のピクニック』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『夜のピクニック』恩田 陸 新潮文庫 2006年9月5日発行 高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑