『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷

本と鍵の季節 (単行本)

米澤穂信の新刊 『本と鍵の季節』 を読みました。相変わらずの安定感、その滑らかさには舌を巻きます。長編 『王とサーカス』 ほどではないにせよ、この人が書く短編は短編で、ただ短い話が6つあるだけではありません。長編を読むように、順を追って読んでください。

収録作品
1.913
2.ロックオンロッカー
3.金曜に彼は何をしたのか
4.ない本
5.昔話を聞かせておくれよ
6.友よ知るなかれ

(私の拙い感想に代えて) 今回は、集英社のWEBサイトにある瀧井朝世氏の書評を全文に渡り紹介しようと思います。(こんなの先に読んだ私が悪かった。ここには過不足なく全容が書いてあり、他に書くべきことが見当たりません )

図書室にいる2人の高校生探偵] 瀧井朝世(ライター)

気軽に読める短篇が並んでいるようでいて、通読するからこそ味わえる感慨がある。米澤穂信の新作 『本と鍵の季節』 はそんな類いのミステリ作品集である。

主人公は男子高校生。高校二年の堀川次郎は図書委員。いたって普通の男子。相棒は同じく図書委員の松倉詩門で、背が高く顔もよく、やや皮肉屋。いつも図書室で暇を持て余す彼らが、いくつもの謎に遭遇していく。

第1話 913」 では先輩の女子から 「開かずの金庫」 の番号を当ててほしいと頼まれる。というのも2人は以前、江戸川乱歩の短篇に出てくる暗号を解いてみせたことがあったからだ。第2話の 「ロックオンロッカー」 では、美容院に行った彼らが店に漂う不穏な空気を感じ取り、その事情を推理していく。

第3話 金曜に彼は何をしたのか」 で相談を持ち込むのは後輩男子。テスト問題を盗んだ疑いがかけられた兄のアリバイを見つけてほしいという。第4話の 「ない本」 で図書室に来たのは見知らぬ上級生男子だ。自殺した級友が最後に読んでいた本を探しているという。

ここまではどれも、2人が本や鍵にまつわる謎に対し異なるアプローチで推理力を発揮、時に食い違い、時に補完し合って事件を解明していく内容だ。と説明すると、米澤作品読者なら、「なんだかおかしい」 と思うかもしれない。そう、主人公2人になんの屈託もないなんて・・・・・・・! 米澤青春ミステリといえば主人公の内面の屈折とほろ苦さも魅力ではないのか、と (確かに第4話の謎はほろ苦いが)。

ご安心を(?)。第5話 昔話を聞かせておくれよ」 と 第6話友よ知るなかれ」 は、謎に向き合うなかで、彼らの意外な苦悩が見えてくる。なかなか一筋縄ではいかない展開ではあるが、そこから2人の友情も浮かび上がり、読後感には爽やかさも残される。

印象に残るのは、誰かが嘘をついているパターンが多い点、また、真相が明らかになっても彼らが人を裁こうとしない点。それを読者に印象づけてから最後の2話を持ってきた巧みさを、読者は噛みしめることになるはずだ。

※悔しいけれど仕方ない。ミステリを紹介をするときのお手本のような文章です。(降参! )

この本を読んでみてください係数 85/100

本と鍵の季節 (単行本)

◆米澤 穂信
1978年岐阜県生まれ。
金沢大学文学部卒業。

作品「折れた竜骨」「心あたりのある者は」「氷菓」「インシテミル」「追想五断章」「ふたりの距離の概算」「満願」「王とサーカス」他多数

関連記事

『僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ』(辻内智貴)_書評という名の読書感想文

『僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ』 辻内智貴 祥伝社 2012年10月20日初版 僕は

記事を読む

『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その2

『ブラックライダー』(その2)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 ブラックライダー

記事を読む

『犯人は僕だけが知っている』(松村涼哉)_書評という名の読書感想文

『犯人は僕だけが知っている』松村 涼哉 メディアワークス文庫 2021年12月25日初版

記事を読む

『はるか/HAL – CA』(宿野かほる)_書評という名の読書感想文

『はるか/HAL - CA』宿野 かほる 新潮文庫 2021年10月1日発行 はるか (新潮

記事を読む

『プロジェクト・インソムニア』(結城真一郎)_書評という名の読書感想文

『プロジェクト・インソムニア』結城 真一郎 新潮文庫 2023年2月1日発行 「♯

記事を読む

『BUTTER』(柚木麻子)_梶井真奈子、通称カジマナという女

『BUTTER』柚木 麻子 新潮文庫 2020年2月1日発行 BUTTER (新潮文庫 ゆ

記事を読む

『ぼくは勉強ができない』山田詠美_書評という名の読書感想文

『ぼくは勉強ができない』 山田 詠美  新潮社 1993年3月25日発行 @1,200 ぼくは勉強

記事を読む

『ぼぎわんが、来る』(澤村伊智)_書評という名の読書感想文

『ぼぎわんが、来る』澤村 伊智 角川ホラー文庫 2018年2月25日初版 ぼぎわんが、来る (

記事を読む

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ペインレス あなたの愛を殺して 下』天童 荒太 新潮文庫 2021年3月1日発行 ペインレ

記事を読む

『ひりつく夜の音』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『ひりつく夜の音』小野寺 史宜 新潮文庫 2019年10月1日発行 ひりつく夜の音 (新潮文

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『くもをさがす』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『くもをさがす』西 加奈子 河出書房新社 2023年4月30日初版発

『悪口と幸せ』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『悪口と幸せ』姫野 カオルコ 光文社 2023年3月30日第1刷発行

『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(椰月美智子)_書評という名の読書感想文

『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』椰月 美智子 双葉文庫 2

『せんせい。』(重松清)_書評という名の読書感想文

『せんせい。』重松 清 新潮文庫 2023年3月25日13刷

『怪物』(脚本 坂元裕二 監督 是枝裕和 著 佐野晶)_書評という名の読書感想文

『怪物』脚本 坂元裕二 監督 是枝裕和 著 佐野晶 宝島社文庫 20

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑